競合のない市場を席巻

 しかし、現地でのリサーチ段階から買収に関わり、今は日本法人のトップを務める坂野誠治・旭化成ゾールメディカル社長の見方は違った。かつて再生医療の研究者だった坂野社長は、再生医療の将来を悲観視していた。一方で、投資を活用するR&D(研究・開発)で収益性を高めていた欧米勢の動きに危機感も抱いていた。

「本当に皆が欲しがるような会社は売りに出ていない。投資銀行などが持ち込む案件は、他の会社が断ったものが多いので、自分たちで探すことにした」(坂野社長)

 そこで着目したのが救命救急医療機器の分野で全米トップシェアを誇るゾール社だった。少しずつ協業するなどして関係を構築し、時機を待った。そして、旭化成のトップが「2000億円までなら財務も痛まない」と勝負に出た。

 現在、競合製品がない中で市場を席巻するゾール社の「ライフベスト(着用型自動除細動器)」は、心臓突然死のリスクを抱えている患者が着用する。遠隔で心電図などを常時監視し、心臓が小刻みに震える状態(細動)などの異常を感知すれば、アラームが鳴る。それから心臓に電気ショックを与えて、正常な動きへと戻す仕組みだ。

 ライフベストは、主に入院してICD(自動除細動器)を胸部に埋め込む手術までのつなぎ期間や、投薬などで回復する可能性が高い患者の観察期間に、2~3カ月間のレンタル品として導入される。日本では累計500人が使い、費用は3カ月で120万円ほど掛かるという。

 9割が失敗といわれる日本企業の海外M&Aでは、希少な成功例といえるだろう。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)