高経年マンションを建て替えて、またそこに住み続けるということが難しい状況になっている。工事費の高騰が止まらず、マンションの規模や立地によっては建替え事業の収支が合わない案件が増えているのだ。だが解決策はある。旭化成ホームズ(※1) マンション建替え研究所が示す解決策とは?

重水丈人 所長
(右)旭化成ホームズ マンション建替え研究所
花房奈々 副所長
「工事費の高騰や建築工期の長期化といった状況を踏まえると、高経年マンションを分譲マンションに建て替えて必ず再取得するという選択肢が、区分所有者にとって最適解になるとは限りません」と語るのは、旭化成ホームズ(※1)のシンクタンクであるマンション建替え研究所の花房奈々副所長だ。工事費の高騰は区分所有者が再取得する際の負担増加に直結し、建築工期の長期化は仮住まいの期間が長くなることで生活への影響が大きい。
同研究所が公表した「マンション建替え調査報告書Ⅷ」によれば、建替え等決議の時期別に分類した再取得率は、2001~10年に決議を行ったマンションは平均71.9%、11~17年が60.0%、18年以降が54.8%と、低下傾向にあり、全ての区分所有者が転出を希望して誰も再取得しなかった例もあるという。「これからは、高経年マンションの建替えに関しての選択肢は多様化していきます」と花房副所長は言う。
アトラスタワー白金レジデンシャル(東京都港区)
2023年9月竣工・96戸(非分譲住戸33戸を含む)

建て替えて再取得が前提の従来型以外の選択肢としては、敷地を売却するという手法もある。同研究所の重水丈人(しげみずたけひと)所長は、14年の「マンション建替円滑化法(※2)」の改正により敷地売却がしやすくなったと語る。
「敷地売却には、それまで区分所有者の全員合意が必要だったのですが、マンション敷地売却制度を利用すると、耐震性不足、耐火性不足などで行政に認定された『特定要除去認定マンション』であれば、区分所有者の5分の4以上の賛成で建物と敷地を一括で売却することができます。その代金は区分所有者・借家人に分配金・補償金として配分されます。再建建物の用途に制約はないので、分譲マンションはもちろん、その土地やエリアに合った商業施設やオフィスビルなどに建て替えることも可能。広さ・立地といった土地そのものの資産価値を最大化することができます。26年以降にはどんなマンションでも敷地売却ができるようにしようと、現在、国会で審議中です」
今後は、分譲マンションへ建て替える場合でも敷地売却の手法を選択するケースも考えられる。状況に応じてバリエーションが拡大していく見通しだ。
※1 2025年4月1日付で旭化成不動産レジデンスより事業承継
※2 「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」