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「くりっく365」が放つ今夏の目玉
“人民元FX”は使えるか?

週刊ダイヤモンド編集部
2011年7月28日
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 8月1日、東京金融取引所(TFX)が運営する「くりっく365」が、3つの通貨ペアを新規上場する。具体的には人民元・円、インドルピー・円、韓国ウォン・円の3ペアだ。順当にいけば、同日よりこれらのFX(外国為替証拠金取引)が可能になる。

 投資家やFX業界関係者の注目度は大きい。特に人民元については、投資家の関心が高いにもかかわらず、投資手段が限られている。現在、FX業者(店頭FX)で人民元を取り扱っているのは、実質的にSBI証券のみだ。そこに公設のFX取引所である、くりっく365が参戦するのだから、投資家の期待が膨らむのも当然だろう。

 しかし、くりっく365に参加していないFX業者は、一様に懐疑的な見方を示している。「本当にサービスとして成り立つのか」(業者幹部)、「公的な面を持っている取引所にしては、先走り過ぎだ」(別の業者首脳)。

 そもそも人民元は、自由な取引ができない。中国政府が強力な資本規制を課しているためだ。そこで、くりっく365でもSBI証券でも、NDF(ノン・デリバラブル・フォワード)という、いわばバーチャルな通貨の先物取引を使うのだが、ドルやユーロなど先進国通貨に比べると格段に流動性が薄い。

 各業者が疑問視するのは、この流動性、すなわち取引がどれほど活発に行われるか、という問題である。流動性が薄い場合、為替手数料に相当するスプレッドが大きくなりがちだ。またその国の経済状況が急変するような事態では、標準から乖離した異常なレートが提示される、あるいはレートが提示されない、つまり取引自体ができなくなる、といったこともありうる。

 くりっく365では、レートを提示するのは「マーケットメーカー」と呼ばれる指定の大手銀行や証券会社(現在6社)だ。マーケットメーカーは、“市場の実勢に沿って誠実にレートを提示する”義務を負う。だが、もともと流動性が薄い人民元NDFの場合、マーケットメーカーにとっては、この義務はビジネス上のリスクとなる。

 店頭FX業者はこの点を突いて、「どこまで“誠実”なレート提示ができるのか」「リスクの高さが、コストとして投資家に転嫁されるのではないか」と指摘する。また、ほぼ24時間取引が可能な先進国通貨に対し、取引できない時間が長いことも、投資家にとってはリスクとなる。

 これに対しTFX側は、「今のところ、スプレッドは広めにならざるをえない」(伊藤渡・常務取締役)としつつも、「流動性については心配していない」と自信を見せる。「人民元NDFの取引は増えている。また、くりっく365に参加している6社のマーケットメーカーは世界でも指折りの信頼性を持っており、随時プライス(レート)が出せるようなシステムを開発している」(同)ことがその根拠だ。なお、人民元・円取引に参加するマーケットメーカーは「8月段階では3~4社だが、最終的には6社すべてにお願いする」という。

 流動性だけではない。スワップポイントにも注意が必要だ。これは通貨間の金利差に応じて支払われるポイントで、外貨預金での利子に相当する。高金利通貨の取引では、通常は買いがプラス(受け取り)、売りがマイナス(支払い)になる。ところがNDFでは金利裁定が成り立たないため、人民元先高の思惑が織り込まれた現在の“割高”な相場では、買いでもスワップポイントがマイナスになる可能性が高い。

 つまり現状では、金利収入は期待できないばかりか、買い持ちを続ける限り、ポイントが日々差し引かれていくというわけだ。長期投資には向かない。一方、短期の売買で為替差益を狙う投資家が利益を稼げるかどうかは、人民元NDFの値動きとスプレッド、ひいては流動性次第だ。ちなみに、6年前から人民元・円ペアを取り扱っているSBI証券でのスプレッドは1人民元当たり3銭(7月23日現在)、10万元・1日当たりのスワップポイントは買い▲160円、売り0円(同)である。

 くりっく365のスプレッドやスワップポイントがどうなるかはフタを開けてみないとわからないが、人民元NDFがもともと持つ不利な特質を、TFXとマーケットメーカーでどこまで埋められるかが、成否を決めるだろう。

 これらの事情は、インドルピーや韓国ウォンでも共通である。

 くりっく365に“仲介業者”として参加しているFX会社や証券会社などは、一部システム対応の遅れにより秋頃以降となるところはあるものの、ほとんどすべて新3通貨ペアの取り扱いを表明している。ライバルを迎えることになるSBIも、「これで人民元FXの知名度が上がるとすれば歓迎だ。われわれにはリスクコントロールやコストマネジメントに関し長年のノウハウがある」(熊龍豹・SBIリクイディティ・マーケット リクイディティ統括部副部長)と真っ向勝負の構えだ。一方で、楽天銀行のように「顧客が混乱する、もしくは不便を被る可能性が高い」として取り扱いを見送った業者もある。

 投資家にとって、投資手段の選択肢が増えること自体は朗報だ。だがいずれも、通常のFXとは異なるリスクを内包する、特殊な通貨だという認識は必須である。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 河野拓郎)
 

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