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安東泰志の真・金融立国論

「バーゼルⅢ」後の銀行は企業を救えるか 
――根本から問い直される日本の産業金融

安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
【第12回】 2011年8月4日
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銀行の自己資本比率規制の現状と課題

 銀行の自己資本比率規制は、バーゼル銀行監督委員会が統一基準を決め、各国当局が細目を定めることになっている。現在は「バーゼルⅡ」と呼ばれる自己資本比率規制が適用されているが、2013年から2019年にかけて、より厳格化された自己資本比率規制である「バーゼルⅢ」が段階的に導入されることが決まっている。その大きな理由の一つは、2008年のリーマンショックにおいて、世界の金融機関が甚大な損失を計上し、世界経済を揺るがせてしまったことにある。今回は、この自己資本比率規制の厳格化の影響について、専門用語を極力使わず、産業金融面から、なるべく平易に考察してみたい。

 現在の自己資本比率規制は、簡単に言えば「銀行が取るリスク量を自己資本の範囲に抑える」というものである。銀行が取るリスクには、大別して、信用リスク・市場リスク・オペレーショナルリスクの3つがあるが、事業の性格上、一番大きなウエイトを占めるのは信用リスクである。この信用リスクと市場リスクは、統計学的に言えば、「一定の(例えば99.9%の)信頼区間を前提にした場合に理論的に最大となる損失の額(これを「潜在損失」という)」を計算するものである。逆に言えば、先の例では、「潜在損失を超える損失が発生する確率は0.01%」ということである。ただし、こうした複雑な計算をするためのデータがない銀行は、信用リスクの計測については「標準的手法」と呼ばれる簡便な計算方法も認められている。

 現在、国際的な業務を行なっている大手行には、自己資本比率が8%以上であることが求められている。これは、分子に「自己資本(引当金等調整後)」、分母に「銀行が取るリスク量を12.5倍した“リスクアセット”」を持ってきて計算するものである。下の式の両辺に右辺の分母を掛けると、先述の通り、「銀行が取るリスク量を自己資本の範囲に抑える」という式になることがわかるだろう。

 このように、銀行の自己資本比率規制は現在でもそれなりに厳格なものである。しかし、リーマンショックの時には、幾つかの想定外の事態が起きた。例えば、過剰なレバレッジ(借入)に依存した資産の積み上げは、資産価格が下落した時に一気にその撒き直しの動きに繋がり、不安定の度合いを増した。また、好況の時に気前良く配当や賞与を支払っていた反面、一気に経済が落ち込んだ際には資金繰りに窮するような事態も起きた。また、資本の質や、いざという時の流動性の問題にも直面した。これらは、バーゼルⅢにおいて対応が強化されることになったのである。

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安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]

東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、1988年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーターとして手がけ、英国中央銀行による「ロンドンアプローチ・ワーキンググループ」に邦銀唯一のメンバーとして招聘される。帰国後、企画部・投資銀行企画部等を経て、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。創業以来、主として国内機関投資家の出資による8本の企業再生ファンド(総額約2500億円)を組成、市田・近商ストア・東急建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア・日立ハウステック・まぐまぐなど、約90社の再生と成長を手掛ける。事業再生実務家協会理事。著書に『V字回復を実現するハゲタカファンドの事業再生』(幻冬舎メディアコンサルティング 2014年)。
 


安東泰志の真・金融立国論

相次ぐ破綻企業への公的資金の投入、金融緩和や為替介入を巡る日銀・財務省の迷走、そして中身の薄い新金融立国論・・・。銀行や年金などに滞留するお金が“リスクマネー”として企業に行き渡らないという日本の問題の根幹から目をそむけた、現状維持路線はもはや破綻をきたしている。日本の成長のために必要な“真”の金融立国論を、第一線で活躍する投資ファンドの代表者が具体的な事例をもとに語る。

「安東泰志の真・金融立国論」

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