囲碁界にAIという黒船が到来したのは2016年のことだった。米グーグル傘下のディープマインドが開発した「アルファ碁」の登場である。昨春、世界トップクラスの韓国人棋士、李世ドル九段を破ったときは、韓国で“AI鬱”という症状が現れたとも聞いた。

 今年5月、さらに進化したアルファ碁が再び姿を現し、現在世界最強と目される中国人棋士の柯潔九段を3-0で下した。棋士たちはもう心の準備はできていたが、それでもアルファ碁の進化は凄まじいものがあった。

 李世ドル戦から柯潔戦の1年余りで、大きく変わり始めたことがある。囲碁AIは人間と勝負する存在から、「囲碁を理解するためのツール」として、棋士たちが受け入れ始めたのだ。

 実際、柯潔九段はアルファ碁戦以後、18連勝中(継続中、7月7日時点)であり、アルファ碁の手の研究は世界中で非常に活発に行われている。将棋の藤井聡太四段も将棋AIを活用していると聞いた。

 人のレベルを超えたAIとの練習は、野球でいえば時速200㎞のバッティングマシーンで練習するようなものだ。自分のプレースタイルが壊れるリスクもあり“諸刃の剣”だが、成功すれば絶大な効果を得ることができる。

 グーグルのディープマインドはAIの試金石として囲碁というフィールドを選んだ。囲碁はとても奥深いゲームで底が見えない。しかし、必ず勝ち負けがつく。このボードゲームでAIの進化の様子を追い、AIと向き合うヒントになれば、筆者としてこれ以上の喜びはない。

「直感」を手に入れたアルファ碁

 囲碁は19×19=361の碁盤で争われ、その変化の数は、宇宙に存在する全ての原子の数より多いとされる。コンピュータの計算力をもってしても膨大で、囲碁が難攻不落と言われていた理由だ。

 ただ、「コンピュータは全部しらみつぶしに読むから強いですよね」という質問をよく受けるが、アルファ碁は全ての変化を読んでいるわけではない。例えば米IBMが開発したチェスAIのディープブルーは1秒間に2億手を読むが、アルファ碁は1秒間に1万手しか読まない。

 それではなぜ、アルファ碁は強いのか。

 アルファ碁がそれまでの囲碁AIから急速に強くなったのは、ディープラーニングを取り入れたことが大きな理由だ。そしてディープラーニングによって囲碁AIが手に入れたものは人間で言う「直感、感覚」なのだ。