犠牲者の数、その後の当局の対応のまずさなど、様々な角度から議論された中国の高速鉄道脱線事故。高速鉄道の分野では一日の長がある日本では、新幹線の技術を同国に提供してきた経緯があるだけに、複雑な想いで顛末を見守っている関係者も少なくないだろう。中国での事故が暗示するかのように、青森から鹿児島まで一気通貫の列車網が構築され、話題が盛り上がっている国内の新幹線事情についても、実は一筋縄ではいかないトレンドが出始めている。日本の新幹線ビジネスが抱える課題を分析してみよう。(取材・文/友清 哲、協力/プレスラボ)

地震対応で称賛された日本の新幹線技術
中国の高速鉄道事故については「複雑な思い」

 長距離移動手段の1つとして、長らく新幹線に慣れ親しんできた日本人に、先月下旬に発生した中国・高速鉄道脱線事故が与えたインパクトは決して小さくなかったはずだ。この大事故は、犠牲者の数、その後の当局の対応のまずさなど、様々な角度から関心を持たれ、議論された。

 日本において、高度経済成長のシンボルとして愛されてきた新幹線。その先駆けは、旧・国鉄時代のJRが1964年10月1日に開業した、東海道新幹線である。当時の世界最速記録であった時速210kmを実現したのは、まさしく日本の技術力の賜物だった。

 また、新幹線に見られる卓抜した技術力はスピードだけでなく、安全面でも顕著だ。とりわけ日本にとって重視されるのは、地震への対応力である。

 先の東日本大震災発生時には、東北新幹線は最初の揺れが発生する9秒前、最大の揺れが起こる1分以上も前に非常ブレーキが作動して減速、脱線を免れている。揺れの大きさを踏まえれば、これは特筆すべき機能と言える。

 東北新幹線では、沿線のほか岩手県・宮古や宮城県・牡鹿半島など、太平洋沿岸に設置された9基の地震計を活用している。これらによって素早く揺れを察知し、減速させるのが「早期地震検知システム」だ。その確かな技術力が世界を驚嘆させたことは、記憶に新しい。