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「流動性の罠」とどう付き合うべきなのか

山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]
【第193回】 2011年8月10日
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日米で「流動性の罠」か

 8月8日付けの『ウォールストリート・ジャーナル日本版』に、「流動性の罠に陥った米経済、有効な救済策はあるのか」(署名David Wessel)という、興味深い記事が載っていた。

 流動性の罠とは、いうまでもなくジョン・メイナード・ケインズが提唱した概念で、同記事の説明を借りると「金利が極めて低い状態に達し、消費者や企業、投資家にとって資金を現金で保有しようが、利付き投資で保有しようがコストに違いのない状態」を意味する。この状態に陥ると、中央銀行が市中銀行に通貨を供給しても、金利はこれ以上下がらないし、利子を生まない銀行準備預金が増えるだけで、新たな融資や投資には資金が殆ど回らなくなる。

 通貨供給による金融緩和が効かなくなる状態であり、昔の教科書では、この状態に関して、金融政策は紐のようなもので、引き締めるときには効果があるが、「紐を押しても効果がない」といった印象的な説明があったように記憶している。

 日本の場合、「ゼロ金利」に陥ってからは、短期の金融資産(特に短期の国債)と日銀の当座預金に「コストに違いのない状態」が分かりやすく現出した。

 記事は、今や米国でも同様の状態が起きているのではないかと指摘している。今や大手法人も現金(債券などの投資の対象よりも流動性がある)を好み、預金に資金を置くため、バンク・オブ・ニューヨーク・メロン(通称「BNYメロン」)は、米国財務省証券(TB)ですら安全と見なされない事態になった場合に、同行に「資金が押し寄せる」事態を防ぐために、大口法人顧客に対して預金手数料の徴収に踏み切ったのだという。また、S&P500を構成する企業で集計すると、今や75兆円もの現金を保有しているのだという(この状況は日本に似ている)。

 まだ、この先を見なければ、流動性の罠の下におけるリセッションといった、大恐慌時代のような状態に向かっているのかどうかは分からないが、S&Pによる米国債格下げを承けた8月8日(月)の米国市場ではニューヨークダウが前週比600ドル以上も下落し、怪しい気配が漂っている。

 流動性の罠の状況に関しては、日本の方が米国よりも先輩であり、長きにわたってデフレに陥っている点を考慮するとより重症の先輩患者だ。新しい「病友」が何を考えているのかを見て、また、先輩患者としてアドバイスができないのか、考えてみよう。

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山崎 元 [経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員]

58年北海道生まれ。81年東京大学経済学部卒。三菱商事、野村投信、住友信託銀行、メリルリンチ証券、山一證券、UFJ総研など12社を経て、現在、楽天証券経済研究所客員研究員、マイベンチマーク代表取締役。


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