日本企業におけるピープルアナリティクスの取組みに関して、PwCによる連載第5回目となる本稿では、近年インターネットマーケティングの業界において飛躍的な成長を続けるセプテーニ・ホールディングスの取組みを紹介する。同社は、主力事業領域であるネットマーケティングや、メディアコンテンツ事業の競争力に直結する人的資産を恒常的に高めるために、2011年よりプロジェクトチームを発足(現在の「人的資産研究所(Human Capital Lab)」)。“「人が育つ」を科学する”、をテーマに、ピープルアナリティクスに関する研究と社内向けのサービス開発に取り組んできた。本取組みを牽引した同社取締役グループ上席執行役員の上野勇氏に、取組みの概要から、ご苦労されたこと、そして得られた効果などについて聞いた。
ピープルアナリティクスを支える
20年間蓄積した360度評価データ
上野 勇(うえの いさむ)
1998年入社。入社後は主に人事領域を担当。人事担当役員としてグループの人材マネジメントをリードしていく傍ら、科学的な人材育成の取り組みを構想。約5年前から現在に至るまでグループ内における独自の人材採用・マネジメント技術の導入・検証を担当部門へ啓蒙し、活動を推進している
北崎 貴社がピープルアナリティクスに取り組むきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。
上野 最初はピープルアナリティクスを志向していたわけではありませんでした。弊社では20年ほど前から360度評価を実施しているのですが、これが一般的な他企業とは少し違っていて、一人ひとりの従業員が全従業員を評価できる仕組みとしていました。そこに制約はなく、一従業員であっても社長や役員を評価することができます。まずこれを20年やり続けていたことがデータの蓄積という意味では大きかったように思います。
360度評価の結果を人事評価に直接的に活用しているわけではないですが、このスコアが従業員の実際のレピュテーションとも非常に連動しており、スコアの信頼性が非常に高かったということが、アナリティクスに活用する上で非常に有用なデータの一つとして機能したと考えています。
北崎 360度評価に対する信頼性が高いことは人材マネジメント上の大きな強みの一つになりますね。他社では360度の信頼性を維持することに苦労されているようなところもありますが、なぜそこまで高い信頼性を保てているのでしょうか。
上野 長年続けているからこそという面もありますが、やはり“できる人”とみんなが認識している人にちゃんと高いスコアがついているということが一番の要因だと思います。弊社の360度評価は半年ごとに被評価者1名に対し約20名が評価しており、直接的に報酬に結び付きはしないのですが、人事考課における評価者もこのスコアをとても重視しています。
また、人間性も加味されている評価ですので、このスコア構成を因数分解し分析することで、その人が現場でどう育っているかを解明し、もっと人材育成を効率化できるのではないかという仮説をたてることができました。
ちょうどその時に、現グループ代表の佐藤から「マネーボール」を紹介され、衝撃を受けました。この理論を、弊社の人材が育つ構造把握に応用できるのではないかと思ったのです。そして導き出したのが、個人の成長は「資質」と「環境(所属組織と担当業務)」の掛け算であるという弊社独自の人材マネジメントの方程式なのです。