明け方に閃いた起死回生のタイトル。
ポイントは、「誰もが知っている人の名前と動きのある言葉」

――大賞受賞時の作品名は、『海商―秀吉に挑んだ男』でしたが、最終的にいまの書名に決まった経緯は?

廣畑 出版するにあたって、多くの人に親しみを持ってもらえるような、より魅力的なタイトルがつけられないか、ずっと考えていました。最終的に、原稿を3回通しで読み直し、明け方5時に閃いたのがこのタイトルです。前回の記事でも紹介した宗室の決意の言葉、「われら商人は、矢玉の代わりに銭を撃つのだ。秀吉が武で攻めるなら、われら商人は商いで受けて立つ」がベースになっています。

『銭の弾もて秀吉を撃て』(後編)<br />作者と社内外のプロフェッショナルに支えられた<br />初めての「歴史小説」編集ストーリー前ソデに刻まれた宗室の言葉。この言葉を見て、タイトルを閃いたという。

 もともと意識していたのは、第140回直木賞受賞作、山本兼一さんの『利休にたずねよ』でした。皆が知っている人の名前(利休)を入れて、かつ動きのあるタイトル。親しみやすさと風格を兼ね備えている、まさに目指していたニュアンスを体現していました。主人公の島井宗室は、よっぽど歴史に詳しい人じゃないと知らないと思います。そこで秀吉の名前を使ってメジャー感を出しつつ、動きをもたせよう、と。指方さんに提案したところ、喜んでくださいました。今では「銭弾(ぜにたま)」と呼んでくださっています。

――いよいよ装丁。これは松さんが装丁を担当してくださっているけど、どういう経緯で決めたの?

廣畑 書名がまだ決まっていない段階から、装丁も含めたデザインはbookwallの松昭教さんにお願いしようと思っていました。というのも、このところ文芸書の装丁で目に止まった作品に、松さんの作品が多かったんです。

 その中に伊坂幸太郎さんの『SOSの猿』と、樋口毅宏さんの『民宿雪国』がありました。『SOSの猿』は写真の使い方も素晴らしく、加えてあんなに細い書体を使っているのに、書名がこんなに目立つのはどうしてだろう、と。『民宿雪国』の方は、全面のイラストと大きな書名が同居しているのに、不思議とゴチャゴチャしていないんですね。こちらもとても魅力でした。そしてこの2冊とも、松さんがデザインされたものだったんです。

――松さんとはどんな話をした?

廣畑 最初はイラストを使うかどうかも決めていませんでした。そこでお互いに本のイメージを、ああでもない、こうでもないと1時間以上議論していました。そんなとき、松さんに「この書名が浮かんだときに、どういう『絵』が頭に浮かんでいました?」と聞かれたんです。