新卒学生の就職戦線に、異変が起きている。これまで、企業が卒業予定の学生を対象に年度ごとに一括して採用する“新卒一括採用”が慣例化していたが、今年は違う動きをみせている。

 昨年度の就職活動で企業に採用されなかった未就職学生が、年度をまたいだ4月以降にも就職活動を継続した結果、次年度採用で就職に漕ぎ着けた学生が激増したのだという。昨年度の未就職学生数(大学、短大、高校、専門学校の卒業生)は、約7.5万人いたと言われている。そのうち、1.9万人もの学生が、今夏までに実施された次年度採用(今年4~6月末時点)で就職を決めているのだという。大半の未就職学生が、慢性的な人手不足に悩む中小・零細企業へと流れているようだ。

 従来、学生が年度を越えて就職活動を継続することは珍しく、「新卒労働市場のなかで起きた初めての現象」(厚労省幹部)。近年は、正社員採用の道を諦めた未就職学生は、フリーターや派遣・請負労働者といった非正規労働市場へ流れる傾向が強かった。

 異変の背景は、おおまかには二つありそうだ。

 一つ目は、昨秋以降、全国にある労働局職員が、積極的に大学や高校などの教育機関へ出向き、ハローワークにおける新卒学生支援の取り組みをアピールしたことにある。昨年10月時点で、大学生の就職内定率が57・6%と過去最悪を記録したことから、「元企業人事部などのスタッフを“ジョブサポーター”としてハローワークに常駐させるなど、国策として新卒学生の就職支援をすることにした」(厚生労働省若年者雇用対策室)のだ。これまで、新卒学生がハローワークへ足を運ぶことなど皆無に等しかったが、就職の手段として、ハローワークの活用を認識し始めているのだ。

 二つ目は、学生側に価値観の変化が生じている。東日本大震災という未曾有の災害が発生したことが影響したのか、より安定的な雇用を志向する傾向が強まっている。期間の定めのある非正規社員よりも、たとえ、企業規模は小さくとも正社員の身分を選択しているようなのだ。

 未就職者が年度を越えて、継続的に就職活動を行なうことは、若年労働者が欲しい中小企業にとっては歓迎すべきことだし、若年層の雇用情勢の好転につながることは間違いない。

 もっとも、震災後の企業業績の悪化から、来春の新卒予定者の内定率は、過去最悪だった昨年度のそれをも下回る観測すらあるし、大企業にも増して中小企業が置かれている経営状況は厳しく、人的コストに資金を割く余裕はないだろう。また、岩手、宮城、福島の被災3県では若年層の雇用の受け皿の不足が露わになっている。前年度以上に、よりきめ細やかで速やかな若年層雇用支援策が求められている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 浅島亮子)

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