安倍改造内閣の発足にもかかわらず、かつて60%を超えていた支持率は、いまだ40%を切っているとの世論調査もある。今回の一連の流れで大きな影響力を見せたのが、加計学園問題などをひたすら報じ続けた新聞・テレビなどのマスメディアだ。櫻井よしこ氏によれば、ここには第一次安倍政権のときと「まったく同じ構図」が見て取れるという。いったい何が「引き金」になったのか? 最新刊『頼るな、備えよ――論戦2017』が発売された櫻井よしこ氏が語った。

前知事の証言を“無視”した
「朝日」と「毎日」

「安倍下ろし」歪曲報道パニックにみる10年前と酷似したメディアの構図櫻井 よしこ
ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。1995年、『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞。1998年、『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年、「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。著書に『頼るな、備えよ―論戦2017』(ダイヤモンド社)など多数。

日本の国内政治は、危機に直面している。日本の政治家のなかで、世界の現状と戦略を最も鋭く把握しているのが安倍晋三首相であろう。国際社会の劇的変化のなかで、安倍首相に取って代わって日本の国益を守り得る政治家はいないのではないか。しかしその首相と自民党への逆風が吹き荒れ、支持率が急落した。

さまざまな要因はあるが、大きな原因となった加計学園問題を見てみよう。

愛媛県今治市に加計学園の獣医学部を新設する問題で、官邸の圧力で行政が歪められたと主張する前川喜平前文部科学事務次官の証言をきっかけに、反安倍勢力による倒閣運動と言える動きが生まれた。
7月10日に国会閉会中審査が行われ、獣医学部新設は愛媛県のみならず四国4県の願いだった、安倍首相主導の国家戦略特区こそ、歪められていた行政を正したのだと加戸守行前愛媛県知事は証言したが、「朝日新聞」も「毎日新聞」も加戸証言を無視した。

大半のテレビ局の報道も同様で、いまや安倍首相は一方的に悪者に仕立て上げられている。内閣府・国家戦略特区ワーキンググループ委員の原英史氏は、獣医学部新設問題を審議した一人である。氏が語った。

「加計学園についての真の問題は、獣医学部新設禁止の“異様さ”です。数多ある岩盤規制のなかでも、獣医学部新設の規制はとりわけ異様です。文部科学省は獣医学部新設を過去52年間禁止してきました。通常の学部の場合、新設計画の認可申請を受けて文科省が審査しますが、獣医学部に関しては新規参入計画は最初から審査に入らない。どれだけすばらしい提案でも、新規参入はすべて排除する。こんな規制、ほかにありません」

原氏は、「異様」の意味はもう一つ、この岩盤規制が法律ではなく文科省の「告示」で決められていることだと強調した。国会での審議も閣議決定もなしに、文科省が勝手に決めた告示によって、52年間も獣医学部は新設されていないというのだ。文科省の独断の表向きの理由は、獣医の需給調整、すなわち獣医が増えすぎるのを防ぐためと説明されている。