貧困線上にある若い女性にとってさらに深刻なのは、景気の悪化によって風俗業界が新規採用を抑制するようになったことです。そのため現在では、10人の応募者のうち採用されるのはせいぜい3~4人という状況になってしまいました。日本社会は(おそらく)人類史上はじめて、若い女性が身体を売りたくても売れない時代を迎えたのです。

 このようにして、金融資産と社会資本をほとんど持たずに地方から都会にやってきた若い女性のなかに、唯一の人的資本であるセックスすらマネタイズできない層が現われました。

 彼女たちは最底辺の風俗業者にすら相手にされないので、インターネットなどを使って自力で相手を探すか、路上に立つしかありません。それでもじゅうぶんな稼ぎにはほど遠く、家賃滞納でアパートを追い出され、ネットカフェで寝泊まりするようになる――すなわち「最貧困女子」の誕生です。

風俗で働く高学歴女子大生

 風俗の仕事が若い女性たちに認知されたのは、獲得した顧客に応じて収入が増える実力主義・成果報酬の給与体系で、出退勤や労働時間、休日を自由に決められる完全フレックスタイムだからです。これはグローバルスタンダードにおける最先端の働き方で、サービス残業で会社に滅私奉公するのが当たり前という日本的労働慣行に適応できない若いひとたちにはきわめて魅力的なのです。

『日本の風俗嬢』でもうひとつ驚いたのは、風俗嬢たちがきわめて堅実な将来設計を持っていることです。

 東京新大久保のファッションヘルスに勤める33歳の女性は介護福祉士の資格を持ち、あと2年実務経験を積めばケアマネジャー(介護支援専門員)の受験資格をもらえるといいます。育児休業中の時間がもったいないのでAVデビューするという35歳の女性は、介護老人保健施設の現場主任をしていました。また大阪難波のSMクラブでは、9人の女王様のうち3人は介護の仕事をしていたといいます。彼女たちはみんな、年齢的に“性”を売ることができなくなったら介護の仕事に戻ることを考えているのです。

 風俗業界に介護関係者が多いのは、介護業界の賃金が低くてそれだけでは食べていけないということもありますが、いちばんの理由は仕事の性質がよく似ているからです。彼女たちからすれば、介護において高齢者に提供していたサービスを男性一般に拡張すると風俗になるのです。

 かつては身体を売ることが女性にとっての最後のセイフティネットとされていましたが、いまでは介護業界が、風俗で働けなくなった女性のセイフティネットになっているのです。

(作家 橘玲)