執事として長く仕えさせていただいた私にできること

――この小説がNHKの連続ドラマになることが決まっています。

 それはもう夢のような話です。本当にびっくりしました。私のまわりはまだ半信半疑ですからね(笑)。撮影は進んでいるのに。

 しかも、主演を務めてくださる常盤貴子さんは、西宮の出身なんです。これがまたうれしい。どんな、むめの夫人を演じてくださるか、とても楽しみです。

 そしてジェームス三木さんの脚本。事前に拝見させていただいたんですが、その完成度の高さには本当にひっくり返ってしまって。プロの脚本家のすごさを見させていただきました。

 でも、脚本の表紙にあった私の名前が、原作だということでジェームス三木さんの上にありまして。これはもう、本当に恐れ多くて(笑)。とんでもないことを私はしでかしてしまったのではないかと(笑)。

 ただもう、この先は、楽しみにするだけです。

――最後に、『神様の女房』の読者のみなさんにメッセージをお願いします。

 私は定年退職をして、すでに老人の域に入っています。今から事業を興す野心など、もちろんありません。でも、ひとつだけ社会のお役に立てることがあると考えています。それは、執事として長く仕えさせていただいた幸之助さんの、そしてむめの夫人の生き方を、たくさんの方々に伝えて、よりよい日本の社会を作っていくヒントにしていただくことです。

 蓮如という人がいます。親鸞の教えを広く一般の人々に伝えた人です。もちろん蓮如の真似などできませんが、幸之助やむめの夫人の思想を広めていくという点では、気持ちだけでも蓮如に近づきたいと思っています。

 世間一般では、松下幸之助さんは事業に成功してお金持ちになった人だ、というくらいの認識しかありません。それが現実だと思うんです。

 でも、本当はそうではないんです。すべての人を幸せにしようと真剣に考えていた。世の中をもっともっと良くしたいと思っていたんです。むめの夫人の助けを借りて、それを本当に実現しようとする途中で、この世を去ってしまった人なんです。

 今回、『神様の女房』を出版させていただいて、なんとも奇遇だな、と感じたことがありました。幸之助さんが私財を投じて最後に残した松下政経塾から100人近い政治家や経済人が出てきていますが、とうとう第一期生から内閣総理大臣を輩出したことです。野田佳彦総理大臣、その人です。

 幸之助さん一人ではできなかったことが、松下政経塾出身の、志を同じくする人々によって育っていこうとしている。それが大きく羽ばたいたのが、野田総理の就任でした。なんとも見事なタイミングで、この本を出させていただくことができたと思っています。これも何かの思し召しかもしれません。

 でも、幸之助さんは草葉の陰で、総理が出た、と万歳をする一方、「どこまで頑張ってくれるか」と心配もしていると思います。残した志で、この難局をなんとか乗り切ってくれ、と。

 そんな幸之助さんやむめの夫人の思いが詰まった本書が、ほんのわずかでも、その後押しにつながったなら、と思っています。
 

小説『神様の女房』著者インタビュー(後編)<br />幸之助夫婦が見続けた「とてつもない夢」<br />
著者:髙橋誠之助(たかはし・せいのすけ)
1940年京都府生まれ。1963年神戸大学経営学部卒業後、松下電器産業株式会社(現パナソニック)入社。主に広島営業所などで販売の第一線で活躍。入社7年目、29歳のとき突然に本社勤務の内示があり、「私は忙しい。松下家の家長として十分なことができない。それをきみにやってほしいんや。よろしく頼む」と松下幸之助直々の命を受ける。以来、松下家の執事の職務に就き、20年以上にわたり松下家に関する一切の仕事を担う。幸之助とむめのの臨終にも立ち会い、執事としての役目をまっとうする。その後、幸之助の志を広めるために1995年に設立された財団法人松下社会科学振興財団の支配人となる。2005 年、財団法人松下社会科学振興財団支配人、定年退職。(写真:石郷友仁)

 

ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ

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松下幸之助を、陰で支え続けた“もう一人の創業者”、妻・むめの。五里霧中の商品開発、営業の失敗、資金の不足、関東大震災と昭和恐慌、最愛の息子の死、そして戦争と財閥解体…。幾度も襲った逆境を、陰となり日向となり支え、「夫の夢は私の夢」と幸之助の描いた壮大なスケールの夢を二人三脚で追いかけた感動の物語。

 

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