性なる江戸の秘め談義(朝日文庫)
氏家幹人著
定価:778円(税込)

 不倫、BL、人妻のホストクラブ通い――。これ、実はお江戸の話。われらがご先祖さまたちも、現代と同じように性を楽しみ、翻弄されていた。さまざまな文献から江戸や明治時代の性愛を読み解いた『性なる江戸の秘め談義』の著者で歴史学者の氏家幹人さんに聞く「江戸のエロス」とは?

『性なる江戸の秘め談義』では、江戸や明治期の文献、日記などさまざまな資料に記された生々しい性愛の記録を75話の「夜話」にまとめて解説したのですが、当時の人たちが自らの性生活について赤裸々に記していることに驚きました。

 たとえば中国には、そういった前近代の記録はほとんどありません。戦で焼失したこともあるのですが、そもそも性的なことを書いたり話したりするのを中国人は嫌がります。それに比べると、日本人は記録好きで、さらに性について書き記すことにもあまり抵抗がないのかもしれないですね。

 中でも青年武士・岩松満次郎俊純の日記は、実に興味深い記録でした。新田家と足利家の流れを組む名門の継嗣(けいし)で、幕末には「新田官軍」として新政府軍に従い、明治期には男爵の称号も与えられた人物です。日記が書かれた嘉永6(1853)年は、浦賀にペリーが来航し、その後まもなく将軍・徳川家慶が死去した激動の年。そんな中、家督を継ぐ前だったとはいえ、俊純は何月何日に誰と何回やって、何回絶頂に達したか、あるいは何回イカセタかなど、ただただセックスの記録だけを記し続けているのです。

 明治の文献として取り上げた俳人・荻原井泉水が10代に記した日記は、まさに「青春手淫日記」。「手淫(しゅいん)」つまりマスターベーションがもたらす快楽と罪悪感との間で揺れ、脳に悪影響があるからと「手淫禁止」を誓ったり、かと思えば我慢できずにすぐにその禁を破って落ち込んだり。そんな若さゆえのイライラと悶々が延々と書かれています。