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「派遣業界問題」はいつの間に埋もれてしまったか
さらに深刻化する派遣社員の厳しい現実と今後の課題

木村明夫
2011年9月29日
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派遣労働ネットワークのHP。ここから、2011年度のアンケート結果を見ることができる。また、現在困っている方の相談にも応じている。

 リーマンショック後の”派遣切り”がマスコミに取り沙汰され、大きな社会問題になったことを、ご記憶の方も多いだろう。しかし、その後の国政の混乱と衆参ねじれ国会などの余波を受け、いつの間にか「派遣業界問題」は埋もれてしまった感がある。

 派遣社員の実態は、現状どのようになっているのか? 改めて調べてみた。やはりと言うべきか、派遣労働ネットワークが行なっている「派遣スタッフアンケート2011年度ダイジェスト版」の中身を見ると、派遣社員の待遇は全く改善されていないことがよくわかる。

 まず、派遣社員の平均時給額だが、2008年の調査では1508.6円であったのに対して、2011年の調査では1504.5円と、下落が止まらない。これは首都圏を中心とした回答だが、全国的に見ると1310.6円とさらに200円ほど低くなる。派遣社員の生活が非常に苦しいことは変わらないどころか、ますます拍車がかかっているようだ。

 アンケート結果の詳細を見ても、7割近くの派遣社員が「今の仕事の収入では生活が苦しい」と回答している。中には、「年金、健康保険料が払えない」「食費を切り詰めている」など、娯楽はおろか最低限必要なものまで節約しなければ生活できないという訴えも見受けられる。

 「税込み年収額が200万円」などという話は、今や地方では珍しくない。確かにこれでは、節約生活を余儀なくされるばかりか、働く希望や意欲さえ持てなくなる。ましてや、結婚をして子どもを作ろうとしてもなかなか難しいだろう。

 実際に、現在派遣社員として働いている人に話を聞くことができた。厳しいのは、給与面だけではないそうだ。正社員でないため、派遣先の福利厚生面でも待遇が悪いという。私用休暇はもちろん、体調不良で休もうものなら「明日から出社しなくてもよいからね」と言われてしまう場合さえあるというから驚きだ。しかし、そんなことは当たり前だという。

 今時、「正社員だから安心」という時代ではない。早期退職制度という名の下に、いわゆる「肩たたき」が行なわれている企業も珍しくない。しかし、安い給与と簡単に解雇されるリスクに耐えながら、日々汗して働いている派遣社員からすれば、正社員という肩書きはやはり魅力的なのだ。

 東日本大震災の際も、真っ先に解雇されたのは言うまでもなく派遣社員だった。「切りやすいところから切る」という企業もあれば、「改正労働者派遣法案を国会で通過させるな」と明言する企業すらあるという。会社自体がなくなり、仕事がないのだから、そういった発言は止むを得ない部分もあるのかもしれない。

 東日本大震災の復興に向けた増税も検討されているが、国会にすら出席しない議員に対して、「明日から来なくてもよいですからね」と派遣社員のように“肩たたき”ができるだけで、どれだけ減税できるのか……。そんなことをふと考えてしまう。

 それくらいのことをしなければ、派遣社員の痛みは国会議員には伝わらないだろう。早急に派遣法案を国会で通過させ、法的に派遣社員と正社員の格差を埋めなければならない。

 立場によって意見は分かれているものの、現行の派遣法案が、社会全体の景気回復を妨げている一因となっているのではないかと思っているのは、筆者だけではないはずだ。未来ある子どもたちが現状の社会情勢を見て、悲観した将来観を抱くのは当たり前だ。派遣社員の状況を見るにつけ、「子どもたちが期待を持てるような世の中にしてあげなければならない」と、切に感じる。

(木村明夫/5時から作家塾(R))


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