上海、北京、広州など経済発展の著しい大都市で、先進国並みに豊かな消費者が急増している。しかし、こうした富裕層が欲しているのは、ブランド品や高級マンションばかりではない。豊かで満足度の高い生活を送れる「教養」へも関心が向けられている。そうしたなか、いま最も注目を集めているものの1つが、かつて日本でも“富の象徴”だった「ピアノ」と「音楽教室」だ。日本最大手のピアノメーカーであるヤマハは、中国ピアノ市場で毎年2ケタ成長を続け、日本ではおなじみのヤマハ音楽教室を大都市圏に18会場開設している(2011年7月現在)。世界のピアノ市場の60%以上を占めるという中国は、なぜここまで“ピアノ大国化”したのか。そして、ヤマハはどのようにしてこの巨大市場を攻略しているのか。ヤマハで楽器・AV営業を統括する土井好広・上席執行役員に話を伺った。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林 恭子)
「ハード=楽器」+「ソフト=音楽教室」で
成長を続けてきたヤマハの基本戦略
――1958年に最初の海外法人をメキシコに設立して以来、世界40以上の国と地域に進出している御社ですが、中国進出はいつ頃から視野に入れていましたか。
もともと弊社では、1980年代から中国各地の音楽大学と楽器や指導者の育成などを通じ、緊密な協力関係を築いてきました。そして、1989年には天津ヤマハを中国企業との合弁で設立し、全世界向けに電子楽器製造を本格化させ、翌年から中国で安価なキーボードを使った教室事業を開始します。しかし、これは本来のヤマハ音楽教室よりは簡易なカリキュラムで、音楽人口の拡大に注力するものでした。
そうしたなかで中国が著しい経済成長をはじめ、弊社にとっても中国消費市場の重要性が増していき、2002年、ついに販売・マーケティングを統括する100%独資の現地法人を設立しました。それをきっかけに、需要創出の観点からヤマハ音楽教室の本格的な展開が検討され、2005年10月、上海にて正式にスタートしました。
ヤマハでは、音楽教室を開設し、演奏人口を拡大させることで需要を創出、その延長線上で楽器を販売することを基本戦略としてきました。つまり、「もの+こと」(ハード+ソフト)の両面で確固たる技術と歴史を積み上げきました。その一番良い例が日本であり、進出した海外の国々でも同じビジネスモデルをとっています。今は中国をはじめとした新興国や発展途上国で音楽教室の数を拡大させている最中です。
2011年7月現在、中国ではヤマハ音楽教室を上海地区9会場、北京地区4会場、広州地区5会場の計18会場で展開しており、生徒数は約5500人です。