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安東泰志の真・金融立国論

大手銀行のカルチャー変革は可能か 
日本を衰退させる規制業種の既得権益

安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]
【第14回】 2011年10月7日
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規制業種の典型例――東京電力

 最近、東京電力など電力業界に対する風当たりが強まりつつある。曰く、監督官庁やマスコミとの癒着がある、一般家庭向け電力料金算定が「総括原価方式」で決まっているのはおかしい、監督官庁からの天下りの受け皿になっている、関連会社への天下りが多い、危機管理が出来ていない…。

 電力業界にも、「電力の安定供給責任がある」など、言い分はあるだろう。しかし、上に列挙したようなものは、ある意味で尤もな批判であるように思われる。福島原発事故後の東京電力を見ていて筆者が奇異に感じたのは、まず、なぜ事故直後に原発事故の現場に会長・社長などトップが出向かなかったかである。企業再生の世界では、危機に際してはトップがリスクを取って陣頭指揮をしなければ社員は絶対についてこない。これは普通の会社ならば「イロハのイ」である。

 筆者が感じた奇異なことの2番目は、トップ以下、役職員が痛みを積極的に取らないことであった。役職員以外の外部ステークホルダーに迷惑をかけ、しかも経営が危機に瀕しているならば、役職員が率先して痛みを取るのが普通の会社の企業再生の鉄則である。そうでなければ外部ステークホルダーは普通許してくれないからである。しかし、原発事故の時に在任していた東京電力の前社長は、退職金を手にし、何らの痛みも取らずに退任しているし、世間並みよりは待遇がいいと言われている社員の報酬も若干のカットでお茶を濁している。

 なぜこうしたことが許されるのかと言えば、要するに電力業界が「普通の会社」ではないからだ。長年に亘って、電力業界は、地域独占と総括原価方式の電力料金体系によって、極めて安定した経営を続けてきた。無論、電力の安定供給に向けた、社員や関係会社の方々の日々の努力を否定するものではないが、電力会社の経営は、規制業種として利益が保証されており、極論すれば特段の経営努力をしなくても成り立つものであった。国民が広く薄く負担をすることで自動的に利益が上がる構造になっているからだ。そういう業界では、リスクを取って無理に利益を上げる必要はない。いわば、既得権益に乗ってお上に逆らわなければ、役職員は安定した一生が送れたのである。

 しかも、こういう規制業種の場合、公共性が高いとされているために、いざとなればお上の介入や公的資金の投入によって救済されることになる。つまるところ、経営に緊張感など必要ないのである。

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安東泰志 [ニューホライズン キャピタル 取締役会長兼社長]

東京大学経済学部卒業、シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。1981年に三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)入行、1988年より、東京三菱銀行ロンドン支店にて、非日系企業ファイナンス担当ヘッド。90年代に英国ならびに欧州大陸の多数の私的整理・企業再生案件について、参加各行を代表するコーディネーターとして手がけ、英国中央銀行による「ロンドンアプローチ・ワーキンググループ」に邦銀唯一のメンバーとして招聘される。帰国後、企画部・投資銀行企画部等を経て、2002年フェニックス・キャピタル(現・ニューホライズンキャピタル)を創業し、代表取締役CEOに就任。創業以来、主として国内機関投資家の出資による8本の企業再生ファンド(総額約2500億円)を組成、市田・近商ストア・東急建設・世紀東急工業・三菱自動車工業・ゴールドパック・ティアック・ソキア・日立ハウステック・まぐまぐなど、約90社の再生と成長を手掛ける。事業再生実務家協会理事。著書に『V字回復を実現するハゲタカファンドの事業再生』(幻冬舎メディアコンサルティング 2014年)。
 


安東泰志の真・金融立国論

相次ぐ破綻企業への公的資金の投入、金融緩和や為替介入を巡る日銀・財務省の迷走、そして中身の薄い新金融立国論・・・。銀行や年金などに滞留するお金が“リスクマネー”として企業に行き渡らないという日本の問題の根幹から目をそむけた、現状維持路線はもはや破綻をきたしている。日本の成長のために必要な“真”の金融立国論を、第一線で活躍する投資ファンドの代表者が具体的な事例をもとに語る。

「安東泰志の真・金融立国論」

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