ある別のクリエーターは、「ジムのランニングマシンに乗るときはいつも、マシンにメモ帳を引っかけておくんだよ」と言っていました。

つまり、アイデアを出すために、「別のことに気を取られる状態」を意図的に作るためにジムを活用しているのです。

「雑談」でカンタンに
素材を引き出せる

もう1つは、世界的に著名な日本人アーティストの一人を取材したときの話です。

次々と衝撃的な芸術を世に送り出す人たちは、どんなふうにアイデアを作っているのか、興味がありました。きっと孤独な作業なのだろうと思っていました。

ところが、そうではなかった。孤独どころか、複数のスタッフとミーティングをしながらアイデアを生み出すというのです。

丸テーブルにみんなで座って他愛ない話をする。すぐにアイデアなど出てこないし、無理に出そうともしない。あっちに飛んだりこっちに飛んだりと「雑談」しているうちに、ふとしたきっかけがトリガーになって、いきなりアイデアが浮かんでくると言います。

これも、先ほどの「脳を油断させる」「意図的に他のことに気を取られる状態を作る」という話に似ています。脳の奥底にアイデアが眠っていたとしても、それを自分一人で引っ張り出すことは難しい。他人とコミュニケーションをとる中で、それが可能になる。

1の素材を10に増殖させる
「ひとり連想ゲーム」

ただし、この方法だと、自分以外のコミュニケーション相手が必要になります。更新頻度が高いブロガーさんや、今すぐ企画書を書かなければいけない場合など、自分ひとりで素早く「ネタ」を集めたいという人にとってはハードルが高い。

そこで私がやっているのは、一人でブレストすることです。

他人とのコミュニケーションでアイデアが浮かぶということはつまり、相手の思いがけない「言葉」に刺激を受けて、脳からアイデアや情報が引っ張りだされてくるということだと思うのです。

それならば、自分自身で思いがけない言葉を出せれば、同じことができるはず。一人でやる「連想ゲーム」のようなものです。

まずは、何か1つ「素材」を出してみる。
それから、別の素材をもう1つ出してみる。
そうすると、出した素材から、別の素材が浮かんできたりするのです。
もう少し具体的にお伝えしましょう。

(※なお、『超スピード文章術』で定義しているビジネス文章の「素材」とは、「独自の事実」、「エピソード」、「数字」。つまり、読み手に「これを伝えたい」と思う内容そのものを指します)

まず、素材を書き出してメモする段階では、「これは使えないかな?」などと余計なことを考えないで、思いついた順に書き出していけばOKです。

10個~20個くらい素材が集まったとき、ちょっと俯瞰してすべての素材を見直してみてください。すると、「この素材とこっちの素材は、このテーマでまとめられそうだ」とグルーピングできるはずです。

たとえば「家事の知恵」をテーマにした企画書を書くことになったとします。あなたはまず、「家事」を洗い出すために、次のような素材をランダムに集めたとしましょう。

・リビングの片付け
・トイレットペーパーの補充
・食材の買い出し
・洗濯機を回す
・洗濯物を干す
・洗濯物を畳む
・布団を敷く
・朝食を作る
・夕食を作る
・ペットの食事を用意する
・子どもを保育園に送る

……ここまで集めた時点で、ちょっと全体を眺めてみる。
すると、たとえば「時間帯」で分けられることに気づくでしょう。

:朝食を作る、洗濯機を回す、洗濯物を干す、リビングを片付ける、子どもを保育園に送る
:布団を敷く、洗濯物を畳む、食材の買い出し、夕食を作る

時間というくくりで分けてみると、今度はその「時間」をベースにして家事を考えることで、新たな素材を頭の中から引っ張り出しやすくなるのです。

朝なら「ゴミ捨て」もあったな、「米を研いで電子ジャーの炊飯予約」もしてたな。
夜なら「風呂掃除」もあるし「食器洗い」もあったな。そんな具合です。

そうやって、素材から、それをまとめる「枝」を見つけ出し、「枝」をもとに新しい素材を出し、また別の「枝」を見つけられないか考えてみる。

素材としての「葉」と、それをまとめる「枝」を行ったり来たりすることで、自分一人でも、相当な量の素材を集めることができます。

長い文章の構成も
手っ取り早く決まる

この方法は素材集めだけでなく、長い文章を書くときの時間短縮につながります。

書くときになって素材が足りないことに気づき、もう一度素材を集めようとすると、想定外の時間が取られて書くスピードがガクンと落ちます。素材をまとめる「枝」を意識すれば、あらかじめ、そのロスを回避できるのです。

詳細なメソッドは『超スピード文章術』でお伝えしていますが、長い文章を書く場合、素材を束ねる「枝」を作って文章の骨格を用意することが、速く書くための大きなポイントになります。

先ほどの方法で素材を集めると、1つの枝にどれだけの素材が集まるかがわかります。素材がたくさん集まる枝もあれば、思ったより素材が集まらない枝もあったりする。

そこで、素材が少ない枝はカットし、素材が多い枝だけを採用すれば、素材集めの段階から、文章の構成が、ある程度予想できるのです。

なお、文章を書くときに「どんな素材を集めるべきか」、「集めた素材をどう構成すればわかりやすい文章になるのか」という点については、『超スピード文章術』で独自のノウハウを紹介していますので、ぜひご覧になっていただき、使い倒してください。