いま、遺言や相続で悩まれている方が増えています。人それぞれ、いろいろな問題を抱えていますが、遺言があった場合となかった場合では、どう違うのでしょうか。ユニークな遺言の書き方を提唱する『90分で遺言書』の著者・塩原匡浩氏に、遺言のポイントを聞く。

縁遠い兄弟ではなく
近くの知人に遺産をのこしたい

 法定相続人に兄弟姉妹(甥姪の代襲相続を含む)しかいないとき、お世話になった知人や友人に全財産を譲りたいということがあります。こういう場合は、遺言がとくに効力を発揮するケースです。兄弟姉妹には遺留分がないため、係争する可能性は低くなると思われます。

 その事例を具体的に見てみましょう。

 私のお客様に、若い頃に山形県から上京して、東京に約30年住んでいる山本さんという独身の男性の方がいらっしゃいます。

 すっかり東京になじまれ、いまではもう故郷に戻りたくないとおっしゃっています。独身生活を謳歌されていた山本さんですが、初老にさしかかり、ここ数年、体調を崩されたこともあって、きっと心細くなったのでしょう。ご近所の友人に生活面でさまざまなサポートを受けているようでした。

 あるとき、山本さんが私の事務所に来られて「遺言を書いておきたい」というのです。お話をお伺いすると、故郷にはお兄さんとその家族、お姉さんとその家族がいるそうですが、現在ではほとんど交流がないようです。

 そして、「自分には少しばかりの預貯金と不動産があるので、これを兄と姉にではなく、お世話になった自分の友人にもらってほしい。そんなことはできるのでしょうか? 私が亡きあと、兄弟と友人が揉めるようなことがないようにしたいのです」というご相談でした。

 私は公正証書遺言を作成することをお勧めし、付言に自分の想いを綴るとよいでしょうとアドバイスしました。そして数日後に原案をお渡ししたところ、山本さんは大粒の涙を流され、「私がいいたかったのはこういうことなのです」とおっしゃいました。