今回は若者と社会起業家の話。東北復興、そして日本の復興のためには優れた復興リーダーが必要だが、それはどれだけ多くの優れた社会起業家を若者の中から輩出できるかによる、という話である。

世界を変えてきたジョブズの功績

 スティーブ・ジョブズが亡くなって我々は、世界を変えるのはやはり「人」であることを改めて痛感している。多くの人が指摘しているように、ジョブズがいなければコンピュータやITの世界はずいぶんと違ったものになっていただろうし、世界の見え方も変わっていただろう。ジョブズに対する批判として「新しい技術を何も生み出していない」というものがあるが、新しい「モノ」を生み出した」ことは確かであるし、それがコンピュータや音楽などの世界を変えたし、仕事のあり方やクリエイティブの方法も変えた。つまり、ジョブズがやってきたことは「世界を変える」という意思を持った人々に、強力な武器を与えることだった。

 いまはSNSの時代になっているインターネットも、爆発的な普及を促したのはウェブサイトの登場で、これはパソコン通信時代からネットを使っていた人間からすれば衝撃的なことだった。そのウェブサイトも、アメリカ西海岸のZINE(マガジン)文化が大きく影響していたわけだが、そのZINE文化の興隆を支えていたのがDTPという「技術」であり、これはMacが実現させたものだった。

 このZINE文化はヒッピーカルチャーの延長線上にあるもので、つまりジョブズがやってきたことは、ヒッピーカルチャーが目指していた世界観を最新のテクノロジーを使って実現させることだったと言える。だから、コンピュータとビートルズが結びつくのだ。ヒッピー的な世界観で「世界を変える」ことがジョブズの本業だったといえる。

 今年は革命の年だ。中東ではジャスミン革命が起こり、アメリカでは大学生など若者がウォール・ストリートを占拠し、その運動が全米に拡がっている。ヨーロッパ経済も崩壊の危機にある。日本では未曾有の災害が起こり、現代科学の鬼っ子とも言える原発が大事故を起こした。いままでと「違った考え方」が求められ、政治も社会も経済のあり方も変わるべき時期なのだ。

 そんな時に生を終えたジョブズには、やはり運命的なものを感じる。スターというものは時代の申し子なので、時代が変われば役割を終える。そして、最後の仕事として世界中の人々に、時代が変わる、新しい時代が到来することを告げる。そして、新しい時代のスターが必要であることを示唆するのだ。

 エジソンは発明王だったが、ジョブズはテクノロジーの編集王だった。その違いは個人的な資質の違いというよりも、時代が求めていたことの違いである。これからの世界は、ジョブズが牽引した「クリエイティブのテクノロジー」という武器を使って新しい社会の仕組みを作る人を求めているのだろう。社会起業家の時代の、本格的な幕開けなのだと思う。

 新しい時代には新しい人を生み出す努力が必要だ。日本経済が沈滞したままなのは、円高のせいでもなく、政治の貧困のせいでもなく(そんなものは、これまでの日本企業は幾度も乗り越えてきた)、自分が逃げ切ることしか考えていない大人のせいである。企業人が生き残るためには企業を成長させる以外に方策はなく、自分の企業年金を死守するためにも、若者を育てるべきである。東北復興も日本復興もそれ以外に方策はあり得ない。