海外先進国と比べて現役世代への支援が手薄な日本
安倍首相が選挙を決断した表向きの理由は、2019年10月に実施する消費税増税の使途変更であった。
「消費税の使い道として新たに子育て世代への投資の拡充を盛り込む。少子高齢化に対応するため、教育を含めた全世代型の社会保障へ転換したい」。その是非を問うための総選挙だという。
確かに社会保障は最重要政策である。何しろ、社会保障関係費の割合は一般会計予算では3分の1に達している。基礎的財政収支対象経費の4割を超えており、税収は歳出の半分すら賄えていない。
政府の社会保障政策は、2012年6月の3党合意に基づいている。当時の自民党、公明党、民主党の3党が「社会保障と税の一体改革」を取り決めた。消費税を5%から10%へと2段階で引きあげ、増税分を社会保障だけに回しつつ、国債による「借金」を減らしてもいくこととした。5兆6000億円の増税分の5分の1を社会保障に、5分の4を財政健全化にということだ。
そこへ、海外先進諸国と比べて手薄な現役世代への支援を加えようということだ。この「全世代型」は目新しくはない。2013年9月に示された「社会保障制度改革国民会議」の報告書でも提唱されている。
「すべての世代を対象とした社会保障制度へ」と謳い、「21世紀型(2025年)日本モデルの社会保障では、主として高齢者世代を給付の対象とする社会保障から、切れ目なく全世代を対象とする社会保障への転換を目指すべきである」と書き込んだ。
同会議は、3党合意を受けて設けられ、医療や介護などの当事者が委員とならずに有識者だけを集めたかなりアカデミックな構成であった。日本の社会保障の長期的な展望と採るべき政策を大胆に提案できた。その後、医療保険や介護保険の制度改革は、この提案書に沿って進められている。
実は、同会議以前にも麻生内閣の「安心社会実現会議」や民主党政権の「社会保障・税一体改革大綱」などでも「全世代型」は提起されてきた。
実現しなかったのは、政治の場で受け入れる努力がなされなかっただけだ。それが、あの「保育園落ちた。日本死ね!!!」という若い母親の痛烈な一言が国会で披露されるや、流れが大きく変わった。保育園施策が一気に注目され、少子化対策にアクセルが踏み込まれた。そして「全世代型」へ辿り着く。