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エディターズ・チョイス
2011年10月24日
著者・コラム紹介バックナンバー
中野剛志 [京都大学大学院工学研究科准教授]

米国丸儲けの米韓FTAから
なぜ日本は学ばないのか
「TPP亡国論」著者が最後の警告!

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米韓FTAに忍ばされた
ラチェット規定やISD条項の怖さ

 さらに米韓FTAには、いくつか恐ろしい仕掛けがある。

 その一つが、「ラチェット規定」だ。

 ラチェットとは、一方にしか動かない爪歯車を指す。ラチェット規定はすなわち、現状の自由化よりも後退を許さないという規定である。

 締約国が、後で何らかの事情により、市場開放をし過ぎたと思っても、規制を強化することが許されない規定なのだ。このラチェット規定が入っている分野をみると、例えば銀行、保険、法務、特許、会計、電力・ガス、宅配、電気通信、建設サービス、流通、高等教育、医療機器、航空輸送など多岐にわたる。どれも米国企業に有利な分野ばかりである。

 加えて、今後、韓国が他の国とFTAを締結した場合、その条件が米国に対する条件よりも有利な場合は、米国にも同じ条件を適用しなければならないという規定まで入れられた。

 もう一つ特筆すべきは、韓国が、ISD(「国家と投資家の間の紛争解決手続き」)条項を飲まされていることである。

 このISDとは、ある国家が自国の公共の利益のために制定した政策によって、海外の投資家が不利益を被った場合には、世界銀行傘下の「国際投資紛争解決センター」という第三者機関に訴えることができる制度である。

 しかし、このISD条項には次のような問題点が指摘されている。

 ISD条項に基づいて投資家が政府を訴えた場合、数名の仲裁人がこれを審査する。しかし審理の関心は、あくまで「政府の政策が投資家にどれくらいの被害を与えたか」という点だけに向けられ、「その政策が公共の利益のために必要なものかどうか」は考慮されない。その上、この審査は非公開で行われるため不透明であり、判例の拘束を受けないので結果が予測不可能である。

 また、この審査の結果に不服があっても上訴できない。仮に審査結果に法解釈の誤りがあったとしても、国の司法機関は、これを是正することができないのである。

訂正とお詫び:この部分に「しかも、信じがたいことに、米韓FTAの場合には、このISD条項が韓国にのみ適用されるのである」との記述がありましたが、その後の調べでこの一文は誤りであることがわかり、削除しました。ここに訂正し、お詫び致します(11月26日)。

 

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中野剛志 [京都大学大学院工学研究科准教授]

1971年神奈川県生まれ。1996年東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業,通商産業省(現・経済産業省)に入省。2001年英エディンバラ大学大学院(政治思想)に留学し、優等修士号(Msc with distinction)を取得し卒業。2003年論文‘Theorising Economic Nationalism'がイギリス民族学会(ASEN)Nations and Nationalism Prizeを受賞。2000年及び2003年から2008年まで、資源エネルギー庁新エネルギー対策課などに在籍した経験から、エネルギー政策に詳しい。現在、京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)准教授として出向中。『国力論』(以文社,2008)、『考えるヒントで考える』(幻戯書房、2010年)、『TPP亡国論』(集英社、2011年)など著書多数


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