映画「それでもボクはやってない」(2007年公開)をきっかけに痴漢冤罪の問題点が認識されるようになった。しかし、あれから10年経っても、「痴漢冤罪で人生が終わった」などのイメージが先行するばかりで、根本の痴漢行為の実態については、対策法の制定どころか議論さえもまったくされていないのが現状だ。(清談社 福田晃広)

性欲よりも支配欲とストレス
痴漢に走る心理メカニズム

実は四大卒の既婚者サラリーマンが半数以上を占める痴漢加害者。近年では、外国人エリートサラリーマンによる痴漢行為も増えているという。

 今年8月、日本初の「痴漢」の実態についての専門書「男が痴漢になる理由」(イースト・プレス)が上梓された。著者は大森榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳氏(精神保健福祉士・社会福祉士)。痴漢行為をしてしまう男性の特徴や、近年増えている外国人による痴漢のケース、痴漢を減らすための対策などを詳しく聞いた。

 まず一般的に痴漢をする男性は、『性欲が抑えられなくて女性にモテない人』というイメージがあるが、それは間違った理解だと斉藤氏はいう。

「犯罪白書平成27年度版では、痴漢の罪で裁かれた性犯罪者の3割強が既婚者ですし、当クリニックに相談にくる方たちは、四大卒のサラリーマンで家庭をもつ既婚者が半数以上を占めています。また、私たちのアンケート調査によれば、痴漢行為の際に勃起していないと答えた人が過半数以上でした。もちろん痴漢をする動機として性欲は関係ないというのは言い過ぎですが、それだけに注目してしまうと視野狭窄に陥るため非常に危険な考え方です」(斉藤氏、以下同)

 実態として、痴漢行為をする多くの人の動機はストレス発散であり、性欲を満たすというよりも、歪んだ女性観や男尊女卑的価値観が大きく影響しているという。

「彼らの多くは、自分よりも弱い存在の女性に対して性暴力を通して支配し、優越感に浸ることで、日頃のストレスを発散します。女性をモノとして扱ったり、胸、脚、尻のように、『記号』として見ているので、驚くべきことに痴漢されている女性の気持ちがまったく理解できていません。そのような考えに至るのは、おそらく日本社会に根強くある男尊女卑的価値観も少なからず関係しているでしょう」

 ストレス発散する方法は痴漢以外にいくらでもあると思うだろうが、痴漢する人の多くはストレス解消のための選択肢が少ない上に、対人緊張が強くコミュニケーション能力が低いので劣等感を抱きやすいという。その不全感を女性に痴漢することで発散しているのだ。

 また、その裏には、多くの男性が無意識のうちに、男が女より優位で当たり前だという価値観を持っていることも影響しているという。