「定年後」の生活は、必ずしも事前に思い描いたようには運ばない。試行錯誤をしながらも、最後に戻るところは、「誰かの役に立つこと」、「自らの家族のところに戻ること」。2本の米国映画を題材に、あるべき定年後を考えてみよう。(ビジネス書作家 楠木 新)
米国の男性定年退職者も大変
『アバウト・シュミット』(2002年制作)という米国映画をご存じだろうか。名優ジャック・ニコルソンが演じる主人公シュミットが、保険会社の部長代理で定年退職日の終業を迎えるのがオープニングである。彼は60代半ばである。
その夜、彼のハッピーリタイアメントを祝う会がレストランで盛大に行われる。妻と一緒にメインの席に座り、昔からの友人や仕事の後任者からスピーチを受ける。後任者は「いつでも会社に遊びに来てくれ」と言い、引き続き仕事の指導もお願いしたいと述べる。
彼は妻と、今は離れて暮らす娘との三人家族で、仕事一筋だったまじめな男だ。会社中心の生活リズムが染みついていたせいか退職後は手持ち無沙汰になる日々が続いた。
家では部屋で横になってリモコンをパチパチしてチャンネルを変える姿がスクリーンに現れる。これは日本でも米国でも変わらないようだ。
退職後にシュミットが会社に立ち寄ると、「いつでも来てくれ」と言っていた後任者は忙しいからと嫌がる態度を見せる。また自分が作成した引継ぎ書類がダンボール箱に入れられたまま放置されていることを知ってショックを受ける。