定年を境とする大きな落差。これを埋めるためには、少し前もっての「準備」が必要なのかもしれない。その日が来てから慌てないために、あらかじめ考えておくべきことがありそうだ。

定年前後のギャップが大きい

 これまでの連載では、定年退職した男性が社会とのつながりを失って「誰も名前を呼んでくれない」状態に陥った事例や、「家庭に居場所がない」ことから家族との間に軋轢が生じているケースも紹介してきた。これらの問題の本質を一言で言えば、「定年を境として落差が大きすぎる」ということだ。

 定年退職日はある時点でいきなりやってくる。その日を境に、長年取り組んできた仕事も、会社での人間関係も、スケジュールもすべて一度に失われる。一方で、本人自身はいきなり変わることはできないので、そのギャップの大きさに戸惑うのである。

 毎朝7時に起床して、8時の電車に乗って出社して、残業をこなしてちょっと一杯飲んで家に戻ると夜10時過ぎ。そういう生活を40年近く続けてきた後に、いきなり朝からまったく自由で、何もやることがない生活に移行する。

 そのギャップは、当初大きな解放感になって現れる。ほとんどの人が会社生活から解き放たれた喜びを語る。そして解放感が徐々に収まるとともに現実に引き戻される。多くの自由な時間を楽しく過ごすことができれば良いが、何をしていいのか、何に取り組んでいいのか分からなくなる人も少なくない。社会とつながりたいと願ってもう一度働くことを目指しても、面接にもたどり着けない。そして時間はたっぷりあるのに逆に焦ってしまうのだ。

 この定年前後のギャップを埋めるには、定年前の働き方を修正するか、定年後の生活を変えていくかのどちらかの対応になろう。

 定年後というと、すぐに定年退職日以降のことを考えがちであるが、どのように対応するかという観点から見れば、「定年後は50歳から始まっている」というのが、取材をしてきた私の実感である。拙著『定年後』(中公新書)の副題を「50歳からの生き方、終わり方」にしたのはこういう趣旨である。

 ここでは定年前の状況に焦点を当てて、もう少し深堀りして考えてみよう。