(上)震災で発生したバリアの例。東日本大震災でタイル舗装が破損した後、修復されていない。車椅子にとってのバリアとなっている。点字ブロックも破損している。(下)配慮不足によって発生したバリアの例。ある施設の構内に入る通路と歩道の間に設けられた排水溝の縁が、歩道から3cmほど切り立っている。歩行困難者・車椅子利用者にとってはバリアとなりうる。
Photo by Yoshiko Miwa

 また震災後、道路の路面の状況が変わったことも、熊篠氏に外出を控えさせる原因となっている。震災で陥没したり、陥没した跡が埋められたりで、路面の凹凸などの状況は大きく変わっている。しかし、そのような細かい路面情報はどこにもない。車椅子利用者は、自分が通過することによって路面の情報を集積して行動に役立てているのだが、震災などで大きく状況が変わると、情報の収集と集積をやり直さなくては安全を維持できないことになってしまうのだ。

 では、次に大きな災害が首都圏を襲ったら?

 熊篠氏は、「どうにもならないものはどうにもならないでしょう。行政に頼る・地域で支えるといったことが絵空事とは言わないけれど、そういう備えが機能しなくなるのが大災害の時でしょう?都市部のように集中していればいるほどリスクが大きいし」と語る。確かに、それはそのとおりであろう。

浦河町役場の取り組み
――自治体の限界の中で必要なインフラ整備

浦河町役場。職員約140人が、町民約14000人の生活を支える。
Photo by Yoshiko Miwa

 では、精神障害者たちが完璧な津波避難をやり遂げた浦河町では、自治体はどう考えているのか。

 浦河町保健福祉課長・吉野祐司氏は、筆者に、「緊急時、自治体が災害弱者すべての避難を支援することは、基本的に無理だと思います。地域の協力をお願いするという方向にならざるを得ません」と答えた。

 正直なところ、筆者は驚いた。「無理」と明言する自治体職員に初めて接したからである。しかし、考えてみれば当然のことである。有事の際、東京23区と概ね同面積の浦河町に点在する災害弱者を、140人(平成22年4月現在)の浦河町職員が支援することは、現実的に不可能だ。

 では、自治体として出来ることは、浦河町の場合は何であろうか。

浦河町保健福祉課長・吉野祐司氏
Photo by Yoshiko Miwa

「行政として行わなくてはならないことは、まず第一に現状の確認と、情報提供、避難所の開設です。その後、物資提供、健康ケアを行う必要もあります。物資も、地域住民全員に行きわたる量は備蓄できないので、足りない場合は、自衛隊や他の自治体に応援をお願いする可能性があります」(吉野氏)

 幸い、今回の震災では、避難所の必要性はそれほど高くなかった。もともと浦河町は、全国平均の数十倍の頻度で地震に襲われてきた地域である。住民は地震に対して非常な慣れがある。今回も、避難所に避難しなくてはならない差し迫った脅威があるかどうかは疑問であった。避難所に避難した住民の主なニーズは、「夜間に来るかもしれない津波が怖いので、海岸線から少しでも離れたい」ということであった。避難所の使用率が特に高かったのは、海の近くに住んでいる高齢者夫妻であった。ちなみに、3月11日の大震災の際の浦河町全体での避難率(避難所に来た人の比率)は11%だったそうである(この他に、知人宅等への避難・車で避難して車中泊といった避難行動を行った人々もいた)。