「乾杯!」の合図とともに始まった喧噪もつかの間、会場に集まっていた銀行員たちの視線は、ステージに登壇した人物に吸い寄せられ、一瞬にして静寂が訪れた。
「学生時代からeコマースサイトを立ち上げ――」という言葉からから始まったわずか3分足らずのスピーチ。話し手は、楠正憲氏だ。
楠氏といえば、マイクロソフト(現日本マイクロソフト)やヤフーなどIT企業で要職を歴任しながら、政府では情報化統括責任者(CIO)補佐官などを務め、マイナンバー制度の構築などといった功績を残したことで知られる人物。
情報セキュリティやブロックチェーン分野への造詣が深く、今回、三菱東京UFJ銀行の持ち株会社である三菱UFJフィナンシャル・グループ(FG)が立ち上げた新たな子会社、「ジャパン・デジタル・デザイン(JDD)」の最高技術責任者(CTO)に着任したことで、業界の話題をさらった。
このスピーチは、11月6日に行われたJDDのお披露目の場でのもの。会場にいた銀行員の大半にしてみれば、楠氏の話は、自分たちと“異次元”の物語のように感じたことだろう。また、楠氏が技術部門の責任者に着任したことで、上原高志JDD社長は、「社内のエンジニアのモチベーションを高めるだろう」と期待を寄せる。
では、このJDD発足の意味することは何なのか。言わずもがな、金融業界には、金融とテクノロジーの融合を示す「フィンテック」の荒波が押し寄せている。