「ローマ字」や「発音記号」から親しむのはどうか?

「正しい発音をまず覚えさせる」という話をすると、「では、いっそのこと発音記号を学ぶのはどうでしょうか?」という質問を受けることがあります。

ここまでの説明プロセスでも使ってきた発音記号は、さまざまな言語の音を再現するためにつくられたIPA(International Phonetic Alphabet)という記号です。これをすべて網羅すれば、英語の発音はかなりよくなるでしょう。

ただし、英語は母音だけでも相当数の音がありますから、小さな子どもにいきなりすべてを覚えさせるのは酷だと思います。J PREPでは、小学生まではフォニックスと具体的な単語の発音練習をさせるようにし、中学生以上にはIPAを使った指導をするようにしています。入門段階をひととおり終えた学習者が、発音の知識を整理する際には、発音記号は非常に効果的です。

「では、まずローマ字を学んで、アルファベットに親しませるのはどうですか?」

これも小さな子どもの親御さんからよく受ける質問ですが、結論としてはノーです。
ローマ字は、外国人が日本語の発音を学習するためのツールであり、逆の用途には使えません。英語を学ぶきっかけとしてローマ字を用いるのは、高速道路を逆走するような危険行為だと生徒に言い聞かせています。
たとえば、ローマ字では“プ”を“pu”と表記しますが、ローマ字の“p”と英語の“p”とでは、音がまったく違います。
英語の[p]の音は破裂音といって、唇を閉じていったん息を溜め込み、それを破裂させるようにしながら音を出します。口の前にティッシュペーパーを垂らして、「push」を正しく発音すると、ティッシュペーパーは大きく揺れます。一方、日本語式に「プッシュ」と言っても、ティッシュはほとんど揺れません。

本来異なるはずの音を同じ文字で表記してしまうという意味で、ローマ字は子どもに混乱を招く可能性があります。日本語の素養としてローマ字を知っておくことまでは否定しませんが、子どもの英語習得を目的とした場合、ローマ字は「遠回り」だということはぜひ知っておいてください。