11月下旬、日本銀行の職員から自民党の政調幹部らに、ある「資料」が届けられた。
A4判5枚つづりの紙に、為替相場の推移や日米欧の株式市場の動向、企業の資金繰りの実態などのグラフが並ぶ中で、ひときわ目を引いたのが、日本国債の利回り曲線(イールドカーブ)について示した図だ。
日銀が昨年9月に導入した、長短金利操作(イールドカーブコントロール)の概要を、わざわざ参考資料で解説しながら、資料提出前日の利回り曲線を前の年と比較し、いかに狙い通りに機能しているかをアピールするものだった。
そうした資料を、なぜ今示す必要があったのか。そこには、昨年のマイナス金利導入以来収益悪化に苦しみ、恨み節が絶えない金融機関をけん制したいという、日銀の意図が見え隠れする。
それを読み解くカギになるのが、11月13日の黒田東彦総裁の講演だ。黒田総裁は講演の中で「(銀行の)預貸金利ざやの縮小を通じて(中略)金融仲介機能が阻害され、かえって金融緩和の効果が反転する可能性」という、金融緩和の副作用(リバーサル・レート理論)に珍しく言及している。
銀行などからの批判に配慮したように聞こえるものの、そう素直に受け止めたのは実は「少数派」(メガバンク幹部)だ。
なぜなら、日銀として結局強調していたのは、イールドカーブは適切な水準にあり、かつ「現時点で金融仲介機能は阻害されていない」ということだったからだ。