少子化でオモチャ市場が低迷を続けるなか、トップメーカーのバンダイナムコホールディングス(HD)に“異変”が起こっている。オモチャを扱う傘下のバンダイのトイホビー部門が絶好調なのである。2011年4~9月期の同部門の売上高は前年同期比13%増、営業利益は27.1%も伸びた。通期も足元で欧州債務危機が深刻化しているにもかかわらず、2ケタ近い増加を見込んでいる。
けん引したのは、仮面ライダー(仮面ライダーオーズ)のベルト。変身ベルトに別売りのメダルを差し込んで、登場人物になりきって遊ぶというものだが、男の子のメダル収集癖をくすぐり、大ヒットした。「仮面ライダー関連商品史上、最大の売上高」(石川祝男・バンダイナムコHD社長)だという。
秋から始まった新シリーズの「仮面ライダーフォーゼ」に使われた変身ベルト「DXフォーゼドライバー」(定価6825円)に至っては、クリスマス商戦でバカ売れし、品切れ店が続出している。バンダイナムコのある役員も、「友人から、孫が欲しがっているので何とかしてほしいという問い合わせをしょっちゅう受けたが、私でもどうにもできない」とうれしい悲鳴をあげる。
ベルトのみならず、付属でも稼ぐのがバンダイ商法。ドリル式や押しボタン式など別売りのスイッチ(294円)をベルトに差し込んで登場人物になりきって遊ぶため、親はスイッチをねだられることになる。その種類はなんと40に上る。グループ傘下のナムコが運営するアーケードゲームでレアアイテムとしてもらえたり、カネを入れてつまみを回すとカプセルが出てくるガチャガチャや菓子についたおまけなどにも入手経路が広がっている。つまり、1粒で2度おいしいビジネスモデルなのだ。
「普通、オモチャは誕生日とクリスマスのプレゼント向けに売れることが多いが、スイッチはそれ以外の月でもコンスタントに売れている」(幹部)という。
じつはバンダイではここ1年で組織を変えてきた。これまではゲーム機やオモチャ、アパレルなどの事業部が別々に戦略を立ててきたが、仮面ライダーやガンダムなどの「キャラクター連動」を合言葉に、個々の事業部が情報を共有化し、同時期にキャンペーンなどを仕掛ける仕組みにした。
また、レアなアイテムで人気を高めるビジネスモデルは、最近流行りのモバゲーやグリーのソーシャルゲームにも共通している。収集することによる満足感や友人に対する優越感が、収集意欲を高める心理効果がある。
05年9月のバンダイ、ナムコ統合以来、巨体を生かし切れてこなかったバンダイナムコHDに、にわかに吹く追い風。仮面ライダーだけでなく、家族や友人どうしで対戦するオセロなどのボードゲームも、節電と“絆”ブームで前年同期比で2ケタ増を示しているし、アーケードゲーム(ゲームセンター)も「近場で手ごろに遊べる」と4月以降、既存店の売上高は前年同月をクリアしている。
「来年に発表する中期経営計画の期間中に、営業利益で統合以来、過去最高(06年度、422億円)を更新する」と自信を見せる石川社長。この“公約”が達成できるか否かは、この成長トレンドをいかに続けていけるかにかかっている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子)