「こんな会社辞めてやる!」
「転職すれば、やりがいのある仕事ができるはずだ!」

2000年代半ば、まさに転職がブームと化していた当時、新卒入社した会社をあっさりと辞め、意気揚々と転職していく若者が後を絶たなかった。しかし、彼らの多くが転職によって人生が好転したわけではない。

社会人の2人に1人が転職するという「大転職時代」が到来した今なお、なぜ転職はこうもうまくいかないのか。本連載では、人材紹介事業を展開するインテリジェンスの元代表取締役社長であり、「転職のオモテとウラ」を誰よりも知る鎌田和彦氏が、転職市場が再び活況を迎える今、世の中に溢れる不幸な転職をなくし、幸せな転職へと導くための処方箋を提案する。

 私がインテリジェンスで人材紹介事業をスタートした1997年、こんなにも転職が当たり前になるとは考えもしませんでした。もちろん、時代の流れはまさに不可逆的に人材の流動化、柔軟な人材活用の方向に進んでいたわけですが、まさかこんなにも日本のビジネスパースンが安易に転職に踏み切る時代が来るとは予測できていなかったからです。

 人材紹介という仕組みが規制緩和によって合法化され、ほぼ時を同じくして登場したインターネット活用によって、転職は一挙に身近なものになりました。人材紹介事業者数は規制緩和された1997年以降増加の一途をたどり、その活用者(転職希望者)数もリーマンショックまでの約10年間、うなぎ上りに増え続けました。

 振り返れば2000年代半ばはまさに転職ブームでした。バブル崩壊以降、仕事に恵まれない時代を長く過ごした1970年代生まれの世代を中心に“キャリア・アップ”は当然に目指すべきものになっていきました。そして、本来必ずしも一致することのない「転職」という行為と「キャリア・アップ」という成果が一つの平面上にあるかのような錯覚が根づいてしまったのです。

 人材ベンチャー企業の経営者として20年にわたって、仕事の紹介・斡旋・コンサルティング周辺の仕事に携わり、日本におけるキャリア意識の変革期に人材紹介という新しい仕組みを提供することに中心的な役割を果たした立場から、私はいくつもの疑問に向き合っています。また、当然に、日本における歪んだキャリア志向の形成に一役買ってしまったという反省もあります。

 今、日本の多くの就業者(とりわけホワイトカラー)は「キャリア・クライシス」に直面していると考えています。そこで、このシリーズにおいては、私が人材紹介会社インテリジェンスの経営を通じて実際に体験した様々な事例と、転職が当たり前になった2000年代以降とそれ以前との違いを踏まえながら、転職によってどのようなキャリア・クライシスが待ち受けているのかを具体的に示していく考えです。

 繰り返しになりますが、これは転職を“当たり前”化させた当事者としての反省を含んでいて、つまり、それは転職をしようと考えている皆さんへの警鐘だと捉えて頂いて結構です。端的に言って、転職をするリスクは転職をしないリスクを遥かに上回るのです。