部下をいつ「見限る」か

――相手が取引先の場合、「信頼するに足らない」と感じたら距離を置けばいい。しかし、相手が同じ会社の人間だったらどうでしょう。たとえば会社の中で、上司と部下の関係の場合。「目標を達成する気のない部下」に対し、上司はどう向き合えばよいのでしょうか。こちらが信頼しようとしても、相手が一向に、こちらを理解し、助けようという態度を示さない場合です。

小西 それはね、会社を経営していると、ずっとついて回る問題なんですよ(笑)。仮に「目標未達」がずっと続いたとしても、本人にやる気があればいくらでも挽回のチャンスはやってきます。もちろん、目標が100なのに、50の数字しか出せなかったら、道理としては「あなたの給料が出せないよ」という話です。しかし、やる気があればまだ、その先に結果が期待できるんです。

 ただ、ハナから「達成する気がない」となれば話は別です。目標を達成する気もないのに目標を達成した人を私は見たことがありません。結果が出ないことに不貞腐れて1~2年、やる気を失うくらいならばまだ許せますが、それが3年、4年、5年続くとなると、策を講じなければならなくなります。

――営利企業の場合は、それは避けられない問題ですよね。

小西 そうですね。営利企業は教育機関ではありませんからね。営利企業の場合、利益を出さなければ事業を継続することはできません。最初から目標を達成する気がない、つまり利益を出す気がない社員は、営利企業の原理原則に背いているわけですからね。

――具体的には、どのような策を講じますか?

小西 まずは現実を見てもらうしかないですよね。「あなたはずっと目標未達です。しかも、それを挽回しようという行動もない。一方で、そのあなたには、これだけのコストがかかっている。あなたのパフォーマンスはこうで、コストはこう。これだけのマイナスです」と率直に伝えますよ。

 そのうえで、まだ不貞腐れているようだったら、きっぱり配置転換を迫りますし、場合によっては辞めもらう方向で話し合います。目標を達成すべく一生懸命に働いているほかの人のことを考えたら、当然の措置だと思います。

――たしかに、ほかの社員に「あいつは目標を達成できず、挽回する気もないのに給料をもらっている。頑張っている自分たちがバカみたいだ」と感じさせるのは大きなマイナスです。しかし「辞めてもらいたい」という本音はあれど、実際に「辞めてもらう」となると、日本企業ではとくにハードルが高い気もします。

小西 もちろん「辞めてもらう」のは最後の手段です。実質的には、「会社として警告を出す」という表現が正しいのかもしれません。

 世の中には、勤続年数が長かったり、年齢が上だったりするだけで結構な額の給料をもらっていて、それなのに働きが悪く、目標を達成しようとあがきもせず、ただ会社にぶら下がるだけの人は多くいます。そのような人に対し、社内の人は腫れ物に触るように接し、誰も直接、文句を言いません。だから余計、安住してしまうんです。

 だから、みんなが言いづらいことは「会社として」警告を出す。これが鉄則。経営の責任です。社長自らが「このままでは辞めていただくしかありません」と切り出すのです。下世話な話ですが、お金をいくら払ってでも「やる気のない年配社員」には、辞めていただいたほうがいい。会社が活性化するからです。

 そして、判断基準は「やる気があるかどうか」。結果はともかく、「目標を達成するためのアクション」を起こしているか。これが部下を「見限る」かどうかの境目です。

――同じ職場で働く人間として建設的な関係をつくれない、組織に貢献しようという意欲がそもそもない人には、やむをえないことかもしれませんね。

小西 残念なことですが、そうです。社員に対しては、その実力を発揮してもらうために、粘り強く働きかけることが大前提です。しかし、こちらが相手を理解し、尊重し、助けようという意識でアプローチを続けても、行動が変わらないのであれば「見限る」という決断をしなければならない。組織を守るためには、これは不可避なことです。

 もちろん、好きで「辞めてくれ」と言うわけではありません。しかし、社員みんなの利益とモチベーションを守るためには、「辞めてくれ」と言わざるを得ない場面も出てきます。相手は部下とはいえ、「こちらを理解し、助けよう」という気のない人なわけですから、信頼するに足りません。「あきらめて、別れる」という決断が必要なことは、会社内でも十分に起こりえるのです。

(続く)