こんな日本人がいたのか!?『マレーシア大富豪の教え』(ダイヤモンド社)で話題となった小西史彦さんが、特別インタビューに応じてくれた。24歳のときに「無一文」「コネなし」でマレーシアに飛び込み、艱難辛苦の末に、上場企業を含む約50社の一大企業グループを築き上げ、マレーシア国王から民間人として最高位の「タンスリ」という称号を授けられたVIP中のVIP。しかも、昨年11月には日本国から「旭日双光章」を叙勲。事業家として2ヵ国から叙勲を受けた稀有な存在だ。今回は、ビジネスの世界を生き抜くうえで、根底的に重要な「仕事と向き合う姿勢」についてお話しを伺った。(聞き手:ダイヤモンド社 田中泰、構成:前田浩弥)

売掛金を回収して、初めてセールス。
「無責任な売上」はセールスとはいえない

――ご著書である『マレーシア大富豪の教え』には、「下積み」の大切さを書いていらっしゃいますね。しかし、近年の日本では、「下積み」という言葉は流行りません。むしろ、それを忌避する風潮が強いように感じられます。

小西史彦さん(以下、小西) たしかに、周りからちやほやされるような仕事は一所懸命にやるけれども、根回しやトラブル処理といった地道な仕事では当事者としての責任から逃げるような人は、意外と多いですね。

――小西さんの部下にも、そのような人はいらっしゃいましたか?

小西 はい。まぁ、あまり話したくはないのですが、たとえば、かつてわが社に所属していて、もうすでに辞めてしまった、ある社員の話なんですがね……。彼は「光るもの」をもった人物でした。社内でも最も独創的なアイデアを生み出せる人間だったのです。考え方の切り口がとても面白い。私ははじめ、彼を高く評価しました。私の出張にもついてきてもらったりしたものです。

 しかし、だんだん疑問を覚えるようになりました。というのは、面白いアイデアは出すんですが、そのアイデアを形にすることができないんです。自立して仕事をフィニッシュさせることができず、途中でフニャフニャと崩れてしまうんです。

――なるほど。発想力はあるけれど、いざ実行して壁にぶち当たると、そこで戦意を喪失してしまうという感じですか。

小西 そうですね。それでは、どうにもならない。アイデアは「形」になってはじめて意味がありますからね。

 もう一つ例を挙げましょう。こちらももう辞めてしまった、ある営業マンの話です。その営業マンは、自分で商品を売っておきながら、売掛金の回収は自分でやらずに、経理任せ。そしてトラブルが起こったらすべて上司任せなんですよ。地味で手のかかる仕事やトラブルからは逃げてしまうんです。

 このようなこと、私は絶対に許しません。はっきりいえば、「売掛金の回収を経理に任せるなんてもってのほか。売った人間が回収する」というのが当社のポリシーです。

 もちろん、売掛金の回収というのは、決して楽しい仕事ではない。できればやりたくないのが人情ですよ。だけど、売掛金を回収して、初めて「セールス」といえるんです。売上が立っただけでは、セールスとはいえない。モノを売ったとはいえない。これは社員たちにかねがね言って聞かせていることです。

 でも、その営業マンは、どうしてもその「イヤな仕事」ができなかった。私だって、ずいぶん待ったんですよ。彼が、「イヤな仕事」にまっすぐ向き合うようになってほしい、と。でも、結局、その営業マンは、私の考え方に沿うことができなくて辞めてしまいました。残念なことです

――どんな仕事にも「面白いところ」と「イヤなところ」があります。「面白いところ」だけやる、というのは通らないですよね。

小西 そうです。それがひいては「その人がしっかり仕事をしているか」の判断基準になるんです。そして、「売掛金を回収して、初めてセールスである」という私の考えは、全社に浸透しています。異論を唱える人間はいません。

 無責任に売上を立て、「俺はこれだけ売ったんだ」と天狗になりながら、相手に逃げられたりして売掛金を回収できない営業を、私は何人も見てきました。するとその売掛金は焦げ付きになりますよね。売上は立っても利益は減りますから、ボーナスの額も減ります。これは社員みんなにとっての一大事。だからこそ、社員一人ひとりが「仕事を最後まで完結させなければ、お金をもらえない」と心得ているんです。

――その考え方が「文化」として浸透している会社は、強いですね。

小西 はい。「売掛金を回収して、初めてセールスである」ということについて、社内のコンセンサスを確立する。「この考え方は当然で、議論の余地もない」というところまで煎じ詰める。これがつまりは「一人ひとりが社会人として自立して働ける会社をつくる」ということでもあります。