円滑化法再延長の裏に潜む<br />金融庁の意外な思惑金融庁は、あくまで金融機関の自己判断による不良債権処理を求める意向だ
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 中小企業救済のための中小企業金融円滑化法が再延長される。

 そもそも円滑化法とは、金融機関に、貸し付け条件の変更などに応じるよう努力義務を課した時限立法だ。当初は2011年3月で終わるはずだったが1年間延長。さすがにこれ以上は延ばさないだろうとの観測をよそに、11年12月末ぎりぎりになって「最終」と銘打った再延長が決まった。

 その理由について金融庁は、総合的な“出口戦略”を講じるため、つまり中小企業に対する支援の軸足を単なる「資金繰り」から「事業再生」へと円滑に移すためだと説明する。特に円高や東日本大震災の影響があるなかで「急に終わらせてしまっては、中小企業に不安が広がる」(金融庁)恐れもあるとしている。

 しかし、金融機関には「終わらせたほうがいいと思っていた人も多かった」(地方銀行関係者)という。というのも、「条件変更の新規申し出は一巡している」「条件変更しても業績が回復する企業はなかなかない」という現実があるからだ。

 それでも金融庁が再延長を決めたのは、一つには不良債権予備軍が一気に顕在化するリスクが高かったためだとされる。「円滑化法の終了を境に中小企業の倒産が一気に増えたら、同法を終わらせた金融庁のせいにされかねない」(地銀幹部)ため、それを避けようとしたというのだ。

 しかし、経済環境の好転が望めないなかでは、その事業再生への効果には疑問符が付く。結局、時間稼ぎの意味合いが強いとの見方がもっぱらだ。

 金融庁は11年4月、監督指針を改定して不良債権処理の先送り路線からの決別を示したが、実際には「貸倒引当金を積み増していないところが多いのをよく知っている」(メガバンク幹部)。そのため、金融機関の経営が悪化しないよう、1年かけて貸し倒れに向けた積み増しを促すだろうというのだ。

 中小企業救済が趣旨だった円滑化法。それが、金融機関救済へとかたちを変えた再延長だといえそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 新井美江子)

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