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楠木建 ようするにこういうこと

グローバル化の3つの壁(その3)
「経営者」の希少性

楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]
【第7回】 2012年1月16日
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 先日、企業の人事部門のマネジャーの方々が集まる会議に出席しました。そこでの議題はお決まりの「グローバル・リーダーの育成」。そこである企業の方(この会社はグローバル経営の点で先進的な巨大メーカー)がおっしゃいました。

 「『グローバル』という言葉をとって単に『リーダーの育成』としたところで、話の本筋はほとんど変わらないのではないか。優れたリーダーならばグローバルでも優れているはずだ」と問題を提起しました。

 そのとおりであります。その後「だとしたら、『グローバル』という言葉がアタマにつくことによって、変わるところがあるとしたら何か」という話になり、この場での結論は「コミュニケーション」と「異文化を受容するマインドセット」ということになりました。

 これはそのままこの連載でお話ししてきた「言語の壁」、「多様性の壁」に相当します。ところが僕の見解では、話がグローバルになったときに直面する最大の壁はこの2つではなく、今回お話しする第3の壁であります。それは商売丸ごとをリードできる経営人材の不足です。

グローバル化の本質は
商売の「非連続性」

 最近読んだ記事で、ホンダ社長の伊東孝紳さんが、「これまでホンダは内向きだった」と書いていました。何が内向きかというと、北米ばかりを見ていたという。普通、日本企業が内向きというと、日本国内のことを指しますが、長年にわたって北米に事業の軸足があるホンダにとっては内向きというとアメリカを指しているんですね。ホンダにとっては北米の外を考えることがグローバル化だということです。

 つまり、グローバル化の本質は単に言語や法律が違う国に出て行くということではなく、商売の「非連続性」にあります。つまり、それまでのロジックで必ずしも通用しない未知の状況でビジネスをやる、ここにグローバル化の正体があります。

 前回も触れた話ですが、僕の父は機械部品メーカーに勤めていて、昭和40年代にいきなりアフリカに赴任させられました。そこで1人で事務所を立ち上げて、小さなスケールで商売をやっていました。その前は台湾でリアカーにサンプルを積んで行商のように売ってまわっていたと聞いています。

 いきなり知らない土地に行かされたわけですが、父には「さて、いよいよグローバル化だ!」という気負いはあまりなかったのではないでしょうか。というのは、当時の日本は高度成長の初期段階、日本で仕事をしていたとしても、極端な話、アフリカや台湾とたいして違いがなかった。あらゆることが未整備で、技術もなければカネもない(国外で商売をしようにも1ドルは360円だった)。やることなすこと新しい挑戦ばかり。がむしゃらに突っ込んでいくしかない。日常の業務が「非連続性の連続」という状況でした。

 ところが成熟した今の日本ではすでにいろいろなことが整っています。とりわけ大きな会社ではヒト、モノ、カネの蓄積も厚い。だいたいのことがお膳立てできている。未整備の荒野をゼロから耕していくという経験はなかなかできないものです。だからこそ逆に、国の違いが必要以上に大きな壁に思えてしまうのではないでしょうか。

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楠木 建 [一橋大学大学院 国際企業戦略研究科 教授]

1964年東京生まれ。1992年一橋大学大学院商学研究科博士課程修了。一橋大学商学部助教授および同イノベーション研究センター助教授などを経て、2010年より現職。専攻は競争戦略とイノベーション。2010年5月に発行した『ストーリーとしての競争戦略』(東洋経済新報社)は、本格経営書として異例のベストセラーとなり、「ビジネス書大賞2011」の大賞を受賞した。ツイッターアカウントは@kenkusunoki


楠木建 ようするにこういうこと

本格経営書として異例のベストセラー『ストーリーとしての競争戦略』の著者、楠木建一橋大学大学院教授が、日々の出合いや観察からことの本質を見極め、閉塞を打ち破るアイデアを提言。
 

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