関東圏で1000万世帯以上のユーザーを抱える東京ガス。昨年4月に、これまで長く財務畑を歩んできたCFOの吉野和雄氏がCIOに就任(兼務)した。止めることが許されない大規模なライフライン事業のITシステムとはどうあるべきか。安定運用を重視しつつも、「遅れている顧客サービスへのIT活用を進めていきたい」と語る吉野氏に、今後の課題と取り組みについて聞いた。
「システムは止まるもの」
という“常識”は通用しない
――吉野さんはこれまで、企画や財務畑が長く、2009年からはCFOを務めていますが、2011年4月からIT本部長も兼務することになりました。
これまで情報システムの経験はまったくありませんから、周囲も驚いていたようです。IT部門では、「CFOが来るということは、予算が切られるのだろう」と戦々恐々としていたようです(笑)。前任のIT本部長もIT部長も部門たたき上げのシステムの専門家だったのですが、2011年4月に私がIT本部長に、生産部門の工場経験が長い人がIT部長に就任したのでがらりと変わりました。
――最初にIT部門に来られて、どんな印象を受けましたか?
「システムはお客さまにご迷惑をおかけしない規模のトラブルが多々発生するもの」という考えが「当たり前」になっていることに驚きました。稼動中に止まることを前提にしている商品なんて、世の中にはありません。それがIT業界の標準であるならば、「払拭すべきだ」と言っています。業界の標準に合わせる必要はない。わが社の標準を作ってそれに合わせればいい。
IT部門の仕事は大きく分けて「開発」と「運用」があります、開発のほうは皆、おもしろいので力を入れがちです。しかし、いくらいいものを作っても、使っていて止まるのでは意味がない。優れた開発も、安定稼動があって初めて活きる。
私たちは社会インフラを提供しているので、サービスを止めることはできないという特殊性を持っています。ITは、業務インフラであると同時に、社会インフラになっています。止まるとお客様にガスを送ることができません。とにかく毎日「オペレーションを大事にするように」と口をすっぱくして言っています。
私と同時に就任したIT部長も、生産現場出身ですから、非常にオペレーションを大事にしており、同じ感覚を持っています。最近になってIT部門の社員とお酒を飲みながら話していたところ、それまで「とにかく開発を頑張ろう」という雰囲気だったのが、IT本部長とIT部長が変わって「運用重視だ、止めるな」と言われるようになり、カルチャーショックを受けたという声が出ていました。
IT投資は、コスト削減ではなく
付加価値を生むために行うもの
――IT本部長就任の直前に、東日本大震災が起こりました。
当社の管内では幸い大きな被害はありませんでしたが、災害への備えを見直す大きなきっかけになりました。
たとえば、東京湾内には3ヵ所の工場があり、地震対策や津波対策は施していますが、もし津波の想定基準が変わるのであれば、現在の対策が適正かどうかを再検証する必要があります。データセンターのバックアップについても、現状の体制でいいのか、将来移転することや完全二重化なども視野に入れて、戦略を見直しているところです。