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西沢和彦の「税と社会保障抜本改革」入門

後期高齢者医療制度は高齢者差別にあらず
本当に「差別」されているのは現役世代だ

西沢和彦 [日本総合研究所調査部上席主任研究員]
【第8回】 2012年2月14日
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今回から、社会保障のうち医療に目を転じたい。医療に関して、今通常国会において最大の争点の1つとなるのが、後期高齢者医療制度の廃止法案である。もっとも、廃止の根拠となっている差別という批判は妥当性を欠いている。同制度は高齢者をとりたてて差別しておらず、本当に「差別」されているのはむしろ現役世代なのである。

 後期高齢者医療制度は、原則75歳以上の高齢者を対象とする、自民・公明党政権下の2008年に4月にスタートした新しい制度であるにもかかわらず、「社会保障・税一体改革素案」には、「具体的内容について、関係者の理解を得た上で、(中略)制度廃止に向けた見直しのための法案を提出する」と明記されている。これは、09年衆議院選挙の民主党マニフェストを受けたものである。民主党マニフェストでは、後期高齢者医療制度は高齢者を年齢で差別する制度であり、政権交代実現後は廃止するとうたわれていた。

 もっとも、廃止の根拠となっている差別という批判は妥当性を欠いている。同制度は高齢者をとりたてて差別していないからだ。「差別」されているのはむしろ現役世代である。同制度の財源は、現役世代からの所得移転に大きく依存しており、高齢化が一段と進むなか、そうした構造が持続可能なのかということこそが、最大の焦点となるべきなのである。そのことを示すため、まずは、複雑な健康保険財政の構造の解明からはじめたい。

複雑な健康保険財政を
公的年金を参考に読み解く

 わが国の健康保険財政の枠組みは、第1回で述べた公的年金制度のアナロジーとして捉えるとつかみやすい。公的年金制度が厚生、共済、国民各制度の分立を基本とし、基礎年金勘定という共通の財布にお金を出し合っていたように、健康保険制度も制度の分立を基本とし、高齢者医療制度という共通の財布に対し、各制度はお金を出すよう義務付けられているのである。加えて、そこに公費という名の税および赤字国債が投入される。もっとも、健康保険制度は、年金よりさらに複雑であり、財源に占める公費の投入ウェイトも大きい。

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西沢和彦 [日本総合研究所調査部上席主任研究員]

ニシザワ カズヒコ/1989年3月一橋大学社会学部卒業、同年年4月 三井銀行入行、98年より現職。2002年年3月法政大学修士(経済学)。主な著書に『税と社会保障の抜本改革』(日本経済新聞出版社、11年6月)『年金制度は誰のものか』(日本経済新聞出版社08年4月、第51回日経・経済図書文化賞) など。(現在の公職)社会保障審議会日本年金機構評価部会委員、社会保障審議会年金部会年金財政における経済前提と積立金運用のあり方に関する専門委員会委員。


西沢和彦の「税と社会保障抜本改革」入門

増加する社会保障費の財源確保に向けて、政府は消費税引き上げの議論を本格化させている。だが、社会保障をめぐる議論は複雑かつ専門的で、国民は改革の是非を判断できない状態に置かれている。社会保障の専門家として名高い日本総研の西沢和彦主任研究員が、年金をはじめとする社会保障制度の仕組みと問題点を、できるだけ平易に解説し、ひとりひとりがこの問題を考える材料を提供する。

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