フランスでは、裁量労働制で働く人が、一般労働者より長く働いています。これを示すデータもあります(後述)。また、この裁量労働制で働く人の数が15年で3倍も増え、長時間労働化に歯止めがかかりません。また、同制度の適用にあたり一定の厳しい制約条件があるにもかかわらず、経営側による乱用や誤用も多々報告されており、国民の間で、同制度に対する警戒が高まっています。(Nagata Global Partners代表パートナー、パリ第9大学非常勤講師 永田公彦)

「バカンスの国」ですら
裁量労働制で労働時間拡大

フランスでは裁量労働制で長時間労働が拡大している

 フランスで裁量労働制で働く人が増え、長時間労働が拡大する中、筆者が最も特に注目する点は、こうした事実がフランス人の文化特性をもってしても起きていることです。

 フランス人の多くは、個人の自立・権利・尊厳・ワークライフバランスを大切にします。これを脅かそうとする権力側からの圧力や悪用があれば、声をあげ徹底抗戦するか、手切れ金交渉をしてさっさと去っていきます。また他人(特に権力者)の言葉を鵜呑みにせず疑ってかかり、自分の身は自分で守ろうとします。これに加え、子どもの頃から宿題・塾通い・部活が少なく、休みも多い、社会に出ても残業はほどほどで、長期バカンスを楽しむ…こうした「ゆとりの生活」が体に染み込んでおり、もはや欠かせないものになっています。こんなフランス人社会ですら、裁量労働制による長時間労働化が進んでいるのです。

 一方、これと真逆ともいえる文化特性を持つ人が多い日本で、裁量労働制の適用範囲を拡げるとなると、結果は明白。横(さらなる適用拡大)と縦(さらなる長時間化)のリスク増大です。憲法で保障される「健康で文化的な最低限度の生活」と逆行し、ますます長時間労働で疲れ果て、文化どころではない生活を強いられる人が増えます。その結果、社会全体の生産性や活力が失われていくことでしょう。

 今国会で安倍政権が、最重要法案として掲げる働き方改革。時間外労働の上限規制の導入など、一定の前進が期待されるものもあります。しかし、この裁量労働制については、フランスの実態、また文化的な視点からも、世紀の悪法となる可能性が高いため敢えて本稿で取り上げます。