なぜ監査法人の責任は問われないのか?

熊谷  オリンパス事件を考えるにあたっては、経営陣の刑事責任と民事上の賠償責任、逮捕と上場廃止は、べつべつに議論すべきなんです。民事に関しては個人と会社の責任の違い、刑事に関しては時効の問題、日本の株式市場全体の問題、監査制度の問題など、複雑な事象です。
  オリンパスでいうと、そもそも悪いのは菊川さんらの最近の経営陣ではなく、最初に「飛ばし」をした人間です。菊川さんはその負の遺産を引き継いだだけでしょ。菊川さんたちは諸先輩のケツを拭いただけで、普通の人は、自分を出世させてくれた先輩を売ることなんてできないと思いますよ。

藤沢  まあ、そこを空気読まずにやったのがマイケル・ウッドフォード元CEOだという見方もできますね。うがった見方ではありますが。

熊谷  オリンパスに関しては、この飛ばしによる損失は、2008年の決算の時に、イギリスの医療機器メーカーの買収に絡めてケイマンの怪しげなファンドを介在させ、さまざまな名目をつけて600億円以上も支払うなどして処理しました。菊川氏らの経営陣は、そこでこの問題は基本的には終わったと思っていた。しかし、そこをマイケル・ウッドフォード氏がほじくりかえしてきたと。

藤沢  オリンパス内部の権力闘争というか、お家騒動の中で、この問題が出てきてメディアで騒がれだしたわけですね。

熊谷  そして、メディアが騒ぐと、東京地検特捜部も誰かを逮捕しなければならない衝動にかられるわけです。今回の逮捕で特徴的なのは、監査法人関係者が誰も逮捕されていないことです。ライブドアの時はもちろん、カネボウの時さえも監査法人の担当者は逮捕されました。カネボウの監査を担当していたのは当時のビック4のひとつの中央青山監査法人でしたが、最終的に解体を余儀なくされました。
  オリンパスの監査を担当していたのは、あずさ監査法人(2009年3月期まで)と新日本監査法人(2010年3月期~)です。従来であれば監査法人への刑事責任の追求はなされたと思いますが、東京地検特捜部は過去の失敗を教訓にしたのでしょう。中央青山の解体の時は、そのクライアントである上場企業や上場予備軍に多大な影響を与え、監査法人が見つからない企業や、それにより新規上場を延期せざるを得ない企業まででてしまいましたからね。あずさや新日本が解体となったら、日本の監査制度や上場制度が土台から崩れてしまいます。

藤沢  アメリカのビッグ4のひとつのアンダーセンも、エンロン事件の時に解体されましたね。

熊谷  今回のオリンパス事件でも、本来なら、監査法人の責任も追求されてしかるべきなんですけどね。