サラリーマン経営者の保身が「飛ばし」を生む

藤沢  ところで「飛ばし」というのは、ある決算期の損失を、なんらかの複雑な金融取引を介して、どこかに消し去り(飛ばし)、その損失を将来に渡って目立たないように少しずつ出していくことです。この際に複雑なデリバティブ商品が使われることがあり、外資系投資銀行が一時活躍しておりました(笑)。
   当たり前ですが、損失そのものは消すことができません。例えば、今期の損失が100億円だとします。ここで会計ルールの隙を突いて、今期に100億円の利益を計上できる金融取引を考えだして、例えば、今後10年間に毎年10億円ずつ損失を出していくわけです。金融業者としては、合法的にそういった金融取引をデザインするのが腕の見せ所なわけで、一歩間違えると塀の向こう側に落ちたり、銀行免許が取り消しになったりするスリリングなビジネスですね。素人にはオススメできない(笑)。

熊谷  詳細はわかりませんが、オリンパスの場合は、1990年代に損を出した金融商品を、まず、海外のファンドに形式的に割高で買い取らせ、損失を隠し(飛ばし)、その損失は、M&Aの手数料などで少しずつ返済していくというようなスキームだったようです。そして、最初の損失隠しは、市場環境の悪化からどんどん膨らんでいったようですね。

藤沢  そのスキームを指南したのが、投資会社社長の横尾氏らだと言われていますね。証券会社に勤務していたころに、オリンパスの旧経営陣と関わるようなったとか。彼らとしては、スキーム自体は合法だという認識だと思われますが、司法はどのように裁いていくのか注目が集まりますね。

熊谷  そもそもなぜそのようなものに需要があるのかというと、サラリーマン経営者の保身なわけですよね。自分が経営しているときに会社で不祥事があり、例えば、あと2年で定年退職して多額の退職金が貰える。そうすると、自分の退職金のためにも、自分の名誉のためにも、2年だけ合法的に誤魔化せる方法がないかと思ってしまうわけです。

藤沢  そんな経営者の心の隙間と、会計ルールの隙間に、金融業者がスッと入り込んでいくわけですね。

熊谷  オリンパス事件でいうと、1990年代というずっと前に、誰かが財テクで失敗した。失敗自体は違法じゃないけど、その失敗を「飛ばし」を使って誤魔化そうとした。本当に悪いのは、この誤魔化そうとした昔のオリンパスの人たちと、それを手助けした金融業者です。