福岡ソフトバンクホークス・和田毅投手による練習論! 連載第5回のテーマは「緊張感と集中力、心を鍛えること」。もともとは「ふつうの野球少年」でしかなかった彼が、東京六大学野球奪三振記録、新人王、MVP、最多勝、最高勝率……といった結果を出せたのはなぜなのか? 球界トップクラスの「思考派」として知られる現役エースが語った――。(構成/田中周治 写真/繁昌良司)

ソフトバンク和田投手、「頭の中が真っ白になった」2試合の教訓

試合前の緊張感との付き合い方とは?

 僕は今年でプロ野球生活16シーズン目を迎えるが、今でも先発のマウンドに向かう前には毎回のように緊張感に襲われる。高揚感と恐怖感が混じり合ったような独特な感覚。それは、たとえば大観衆の前に身を晒した際の恥ずかしさを伴った緊張感とは少し違う。武者震いに通じる心の状態と言えばわかりやすいだろうか。

 僕はこの試合前に訪れる緊張感に対して、「抑えつける」のではなく、「逆らわない」意識を持つようにしている。経験則から言って、試合前に「緊張しないように」と意識すればするほど、試合本番ですごく緊張して失敗してしまうケースが多いように思う。だから僕の場合は、その時の流れに任せて、試合前に緊張するだけ“し切って”しまうようにしている。そうすると、試合が始まってから「開き直る」ことができ、うまく緊張感を解放できるような気がするのだ。