なぜ、賢いはずの「あの人」がありえないヘマをしでかすのか?なぜあんなに優秀な人が、昇進した途端、別人のようにダメになったのか?「ピーターの法則」を知っていれば、その原因も、対処法もわかる――。
 言わずと知れた世界的ベスト&ロングセラー『ピーターの法則』。1969年の刊行から半世紀、世界中で読み継がれてきた、まさに「伝説の名著」です。この度、「新装版」として新しく生まれ変わった『ピーターの法則』から、その魅力をご紹介。会社、学校、役所、政府……賢い人が集まったはずの組織で、有能な人が無能に転落する驚きの理由とは?

昇進が無能をもたらす

 そのうち私は、こうした事例(第1回参照)のすべてに共通点があることに気づきました。つまり、彼らはいずれも、有能さを発揮できていた地位から無能ぶりを露呈することになる地位へと昇進させられていたのです。この事態は、遅かれ早かれ、あらゆる階級社会の、あらゆる人々に起こりうることだと私は悟りました。

ある会社の昇進と無能

 あなたはパーフェクト・ピル製薬会社のオーナーだとします。薬を丸める工程の作業班長が胃潰瘍を悪化させて亡くなり、後任を平社員のなかから探すことになりました。

なぜあの人は、昇進した途端ダメになった?(イラスト:ヤギワタル)

 オーバル、シリンダー、エリプス、キューブの四人にはどこかしら欠点があり、彼らにまかせるわけにはいきません。そこで、この作業に最も有能なスフィアを班長に登用することにしました。

 さて、そのスフィアは作業班長としても有能であることが証明されたとしましょう。すると、総職長のレグリーが工場長に昇進したときには、スフィアがその空席となったポストに昇格すると予想できます。

 逆に、スフィアが作業班長として無能であれば、もう出世の声はかかりません。なぜなら彼は、私が命名した表現で言えば「無能レベル」に到達してしまったからです。彼は残された日々をその無能レベルに留まり、定年を迎えることになるでしょう。

 班長になれなかったオーバルやシリンダーのような従業員の場合は、階層のいちばん下ですでに無能レベルに達しているので、昇進とは縁がありません。スフィアの場合、作業班長として十分な働きができなかったとすれば、一回の昇進で無能レベルに達したことになります。(第1回でご紹介した)自動車修理工場のE・ティンカーの場合は、二回昇進したあとに三番目のステージで無能レベルに達しています。グッドウィン将軍は、階層の最上部まで昇りつめたところで無能レベルに陥ったということです。

 このように、職業にまつわるおびただしい数の無能の事例を分析した結果から導き出した結論が、次の「ピーターの法則」です。

階層社会では、すべての人は昇進を重ね、おのおのの無能レベルに到達する。