強制上座送りの効能

 では、強制上座送りがうまくいった場合、どんな効果があるでしょうか? ブロケットの上司キックリーがまだ有能なのであれば、彼はブロケットを祭り上げることで、まんまと三つの目的を遂げることになります。

(1)自分が行った人事の失敗をカムフラージュすることができます。もしブロケットが無能だったと認めてしまえば、「キックリーもキックリーだ。そもそもブロケットをあのポストに就けたこと自体が間違いだったんだ」と非難されかねませんが、強制上座送りによって、ほかの社員や外野の人間の目には(階層社会学者は見抜きますが)、これまでの人事は妥当だったと映ることになります。

(2)部下の勤労意欲を保つことができます。「ブロケットでも出世できるのだから、俺にだってチャンスはある」と考える人間が出てくることは想像に難くないでしょう。一人を上のポストに祭り上げるだけで、おおぜいの社員の鼻先にニンジンをぶら下げる効果があるのです。

(3)自分のいる階層社会を維持できます。いくらブロケットが無能でも、キックリーは彼をクビにはできません。もしブロケットをライバル企業に持っていかれた場合、彼が握っているノウハウは、キックリーの会社にとって大きな脅威となる可能性を秘めているからです。