東日本大震災による津波で甚大な被害を受け、死者・行方不明者が1000人超に上る岩手県釜石市。だが、同市内の14の学校、約3000人の子どもたちは無事に避難を遂げたことは「釜石の奇跡」と言われ、震災直後から日本のみならず世界から注目を集めている。そんな「奇跡」の立役者ともいわれるのが、8年前から釜石市の防災・危機管理アドバイザーを務めてきた群馬大学大学院片田敏孝教授だ。今後数十年の間に首都直下型地震、東海・東南海・南海地震の発生が懸念される日本。私たちの間には地震への不安ばかりが先行しているが、未来を担う子どもたちが無事に地震災害から生き延びるためには、いま、どのような防災教育が必要なのだろうか。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

防災は“姿勢”こそが重要
釜石の子どもを救った「避難3原則」

――先生は釜石市の防災・危機管理アドバイザーとして、これまで子どもたちにどのような防災教育を施してこられたのでしょうか。

首都圏に蔓延する地震不安は“知識”では拭えない<br />釜石市3000人の子どもを救った「避難3原則」に学べ<br />――片田敏孝・群馬大学大学院教授インタビューかただ・としたか/群馬大学大学院教授・広域首都圏防災研究センター長。1960年岐阜県生まれ。豊橋技術科学大学大学院博士課程修了後、岐阜大学工学部土木工学科助手などを経て現職。釜石応援ふるさと大使も務める。

 教育は知識を付与するものと考えがちですが、防災に関してはそうではないと考えています。では何をすべきか。自ら判断して意思決定し、行動できる「自然に向き合う姿勢」を与えることが必要です。

 日本は防災のみならず、教育、ひいては社会全体が物事の判断において主体性を欠いています。自らの命を守ることまで指示待ち状態で、避難勧告が出ていても逃げない。ですから、知識を与えても仕方ありません。不安であればあるほど、教えてくれという意識ばかりが高まっていますが、どういう状況でそのときを迎えるかはわからない。でも、自ら主体性を持っていれば積極的な情報収集と判断、行動に移すことができます。そこで私が釜石の子どもたちに伝えたのが「避難3原則」です。

 まずは、受け身の姿勢を打破して、「想定を信じるな」と教えました。相手は自然であって、何が起きてもおかしくありません。ハザードマップを見て安全だと思うのは、与えられた情報に依存している受け身の姿勢で、それに基づいた行動で命を落としかねない。だからこそ、あえてハザードマップを見せながら「これを信じるな」と伝えました。

 2つ目に教えたのが、「その状況において最善を尽くせ」ということです。自然は何を引き起こすかわからないからこそ、最善を尽くさなければ命を失いかねません。ただ、最善を尽くしたその結果は甘んじて受け入れるしかない。そう思うことで、より一生懸命取り組む動機づけになるのです。