ブリヂストン元CEOで『優れたリーダーはみな小心者である。』の著者である荒川詔四氏と、日本GE役員などを歴任して『ストーリーでわかるファシリテーター入門』を執筆した森時彦氏の対談が実現した。テーマはリーダーシップ。若くしてリーダーシップを確立するためには、どうすればいいのか?世界No.1シェアを誇るブリヂストンと、グローバル・ジャイアントであるGEでリーダーシップを発揮したおふたりに語り合っていただいた。

職場の人間関係を「すっきり」させる考え方とは?

森時彦氏(以下、森) 第1回の対談で、「荒川さんが社長と副社長の板挟みとなり、対処に悩んだ」というお話がありました。きっと、そんな“板挟み”のような状況をたくさん乗り越えてこられたことと思います。

 しかし、荒川さんの語り口はとても軽妙で、明るくて、正直、深刻に悩んでいたようには思えませんでした。苦境を楽しんでいたといいますか(笑)。荒川さんは、社内の人間関係ではあまり悩まないタイプだったのでしょうか?

荒川詔四氏(以下、荒川) そうですね。自分で言うのもなんですが、達観している部分もあるかもしれません。

「人間関係は悪いのが普通」と考えれば仕事は楽になる

 「達観」するに至ったきっかけはあるんですか?

荒川 私は若いころから、社内のトラブルシューター的な役割を任されてきたんですよ。社内で何か問題が起きると「お前、見てこい」と。見て来たら、「お前、なんとかして来い」と言われるわけです(笑)。

 社内トラブルというのは、ひとつの部門内で問題が大きくなることはまれで、複数の部門が絡んで結果的に大きな問題となってしまうことがほとんどです。そして、会社は人間の集まりですから、問題を突き詰めていくと「誰々が悪い」「誰々が原因だ」という話に絶対になるんですよ。

 そうですね。よくわかります。ほとんどは「特定の誰か」だったり、「誰かと誰かの連携が悪い」という話になりますよね。

荒川 そうそう。そして私の役割はトラブルシューティングですから、問題を解決するために、特定の誰かに対して「ここを直してください」と指摘するわけですね。するとどういう反応をされると思います? 「お前に言われる筋合いはない」とけちょんけちょんに言われるんですよ。

 問題を抱えている人も、それなりの事情があるわけですものね。トラブルシューターである荒川さんに核心を突かれて、思わず反発してしまったんでしょうね。

荒川 そうなのでしょう。はじめは、反発されるたびに落ち込んでいました。しかしトラブルシューターとして動き回っているうちに、「まあ人間なんてものはそんなものだ」と割り切るようになりました。結果的に、私が動き回ることで問題が解決することが多かったものですから、それでだんだん自信がついてきましたね。なんとかなるわ、と(笑)。

 人間がやる仕事だから、またどこかで問題が起きるだろう。問題の原因をつくった人は、自分を守ろうと反発するだろう。そのなかで自分は淡々と、問題を解決すればいい、とある種「達観」できたんですよ。

 「まあ人間なんてそんなものだ」というあきらめが、「達観」の正体でしょうか?

荒川 うーん……。まぁ、そういうことですかね。本当にもう、ひどいときには、大きな会議で、部下が何十人もいるような役職者から「荒川はけしからん」「荒川は自分のことしか考えていない。そんな男がプロジェクトに口を出すから余計に問題がこじれるんだ」なんて名指しで批判されたこともありますよ。「いやいや、勘弁してくださいよ」と、ホトホト困りました(笑)。それでも、自分にとってはだんだんそれが「通常の場」になっていきましたね。少々のことでは動じなくなった。

 荒川さんのように「人間なんてそんなもの」「人間関係なんて悪いのが普通」という気持ちがあると、人間関係で悩むことも少なくなるかもしれませんね。

荒川 私はもともと、交友関係の広いほうじゃないんです。そんな人間が社会に出たら、もうほとんどが「合わない人」なわけですよ(笑)。さらに「会社」という利益を追求する集団のなかに放り込まれて、1日何時間も一緒にいる。すると「仲良くしよう」とか「問題を起こさないようにしよう」なんて願っても、絶対に叶いませんよね。人間関係がうまくいかないのが、普通なんですよ。そこに気づけば、職場の人間関係でクヨクヨ悩むのがバカらしくなってきますよね。

 そのとおりですね。