【必読ポイント!】
◆牛肉のおねだん
◇僕も短角牛を持ってみたい!

 日本の肉牛のほとんどは、生涯を牛舎で暮らす。そんななか岩手原産の「日本短角種」は、放牧を取り入れて育てられている珍しい牛だ。

 著者は同県二戸市にある牧野管理組合の「オーナー制度」(現在はない)を使って、特別に短角牛を所有することにした。母牛を約28万円(当時)で購入し、畜産農家にえさ代などを払って飼育を委託。自然交配で子牛が生まれたので、「さち」と名づけた。そして母牛にするか肉牛にするか激しく悩んだ末、肉牛にすることに決めた。

 牛は長く飼うほど美味しくなるが、その分コストがかかる。ブランドのない短角牛は高値では売れない。リアルな悩みと向き合った。

◇屠畜場にて

 いよいよ屠畜の時がきた。普通、肥育農家は屠畜施設には嫌がってついていかない。プロでも心苦しい瞬間なのだ。著者は最期まで見送るつもりだったが、立ち会いは許されていなかった。

 翌日、さちは牛から牛肉になった。肥育農家が出荷した肉牛は、市場流通に乗り生産者の知らないところで売買される。しかし著者はみずから引き取って売ることにした。皮や内蔵、骨を除いた部分肉で約300㎏。リブロースやサーロインなど人気部位はすぐ売れたが、残りの部位(230kg)は売れにくかった。こうした不需要部位の壁に、肉牛の業者はかならずぶち当たるのである。

◇利益はいくらか?

 残った部位は焼き肉用のスライスやミンチ肉のセットなどにして、一般消費者向けに販売。なんとかすべて売り切ることができた。

 収支はいくらだったか。30ヵ月の世話代におよそ38万円、屠畜や精肉加工に9万円かかるなど、支出合計は約85万円だった。一方で収入は約110万円。26万円弱の黒字だ。とはいえ人件費も考えると、到底割に合わない。「適正な価格でものを売ることは、産業を守るための正当な手段なのだ。消費者が美味しいものを食べたいと願うなら、生産や流通コストに加え、関わる人たちの生活を支えられるお金を支払わなければならない。」
 
◆美味しい牛肉をめぐって
◇日本のあかうし

「褐毛和種」は東北の短角牛より数が多く、熊本系と高知系の2系統がある。くまもとあか牛(熊本系)のなかでも、阿蘇や南阿蘇の「山のあか牛」は放牧経験があるものが多く、美味しい。一方で高知系の「土佐あかうし」も、短角牛と黒毛の中間のような、バランスのとれた味わいだ。土佐あかうしにすっかり惚れこんだ著者は、高知県のスーパーバイザーとして宣伝を担うことになった。

 肉の格付けが導入される前の昭和30年代は、土佐あかうしがもっとも高値だったという。基準は純粋な美味しさ。黒毛と比べてサシの融点が低いという研究結果もあり、口溶けがいい。「食べる会」などを主催し、土佐あかうしを著名な料理人に売りこんだ。

 こうした努力が実り、土佐あかうしの子牛価格は約2倍に。ついには黒毛の人気を超えるまでになった。