「どうすれば、一生食える人材になれるのか?」
「このまま、今の会社にいて大丈夫なのか?」
ビジネスパーソンなら一度は頭をよぎるそんな不安に、新刊『転職の思考法』で鮮やかに答えを示した北野唯我氏。
もはや、会社は守ってくれない。そんな時代に、私たちはどういう「判断軸」をもって、職業人生をつくっていくべきなのか。本連載では、そんな「一生を左右するほど大切なのに、誰にも聞けないこと」を北野氏が解説する。

転職サイトやエージェントへの登録は「悪手中の悪手」このまま今の会社にいていいのか……?

転職を考える人が、すぐ転職サイトやエージェントに登録しては「いけない」理由 北野唯我(きたの・ゆいが)
兵庫県出身。神戸大学経営学部卒。就職氷河期に博報堂へ入社し、経営企画局・経理財務局で勤務。その後、ボストンコンサルティンググループを経て、2016年ハイクラス層を対象にした人材ポータルサイトを運営するワンキャリアに参画、サイトの編集長としてコラム執筆や対談、企業現場の取材を行う。TV番組のほか、日本経済新聞、プレジデントなどのビジネス誌で「職業人生の設計」の専門家としてコメントを寄せる。

現代は2人に1人が転職する時代。「同期を見渡しても、優秀な人間ほど先に辞めていく」という声が、多くの企業から聞こえてきます。

そんななかで「自分のキャリア」に不安を覚えることが、働く人であれば一度はあるのではないでしょうか。では具体的には頭の中に「転職」の二文字が湧いたとき、最初にとるべきアクションは何でしょうか?

実はここに、落とし穴があります。

ほとんどの人が初めて転職を考えたときにするのは

・転職サイトに登録してみる

・転職エージェントと会う

・転職したことがある友達に話を聞いてみる

この3つではないでしょうか。

ですが、断言しますが、一つ目と二つ目、つまり「まず転職サービスを活用する」のは悪手中の悪手です。なぜならほとんどの転職エージェントは「100年時代に通用するアドバイス」をしてくれないからです。短期的なアドバイスしかくれません。

それは転職サービスのビジネスモデルに起因しています。

転職エージェントが面接を急かしてくるワケ

多くの転職サービスは、採用した企業がサービス事業者にフィーを払うことで成り立っています(だから転職者は無料で利用できる)が、日本の転職サービスのほとんどは「企業と候補者が接点を持ったタイミングで誰がフィーを受け取れるかが決まる」モデルを採用しています。

たとえば、Aさんが転職サービスを通じてある企業を受け、結果的に内定をもらい入社したとします。入社を決定した場合、採用した企業は転職サービスに対して年収の35%(エージェント経由の場合の相場)または、70~120万円(ネット系の転職サービスの相場)程度を支払います。こういうお金の動きです。

では、複数の事業者がAさんにアプローチする中で、「誰がお金を企業から受け取れるか」は何によって決まるか?

それが「面接を受けたタイミング」なのです。つまり、Aさんが転職先の企業と接点をもった時点で転職サービス側は「お金をもらう権利」を得るわけです。

となると、転職サービス側からすればできるだけ早くと「面接を急かす」のは当然です。ほとんどの転職希望者は複数の転職エージェントを比較しながら使っているため、どれだけ親身に相談にのっても、最終的に他社から紹介された企業に入られたら、その企業の取り分はゼロ円だからです。つまりは、「早いもの勝ち」。これがほとんどの転職サービスが「短期的な視点でしかアドバイスをくれない」理由です。

ですが、ちょっと待ってください。

「人生100年時代」に突入しようとしている僕たちが必要なのは「短期的な視点のアドバイス」なのでしょうか?

転職で考えるべきは3つ。「市場価値」「働きやすさ」「活躍の可能性」

僕たちに必要なのは、もっと長期的な視点からみた「自分の職業人生の作り方」のはずです。より具体的に言えば、そのための判断基準、つまりは「思考法」です。

たとえば、不動産を買う例を考えてください。

不動産を買うとき、ほとんどの人は「とても長い視点から、自分にとって何が必要か」を考えてから買うはずです。それは「費用」「広さ」「立地」「オフィスからの距離」など、複数の要素が考えられるでしょう。では転職における、この「要素」とは何でしょうか。

まず、(1)市場価値、(2)働きやすさ、(3)活躍の可能性で整理せよ

結論からいうと、三つです。一つは「市場価値」。二つ目は「働きやすさ」。三つ目は「活躍の可能性」です。

一つ目、「市場価値」とは、つまりどれだけ「レアで価値のある仕事の経験ができるか」です。

二つ目は、「働きやすさ」。これは社内設備や立地などの、物理的な環境に加えて、一緒に働く人との相性などです。

最後、三つ目は「活躍の可能性」です。これは「その会社の中で自分がどれだけ活躍できるイメージが湧くか」です。

そして人生100年時代の今、この三つのうち、どれを最も重視すべきか?

それは間違いなく「市場価値」です。特に35歳まではこれが重要です。

今の日本の現状では、市場価値はほとんど35歳までに決まります。35歳までに他社で通用するような「専門性」か「経験」を身につけなければ、それ以降はかなり厳しい闘いが続きます。

実際、私自身が会社の経営側として採用面接をする際も、どれだけ学歴や地頭がよかろうが35歳になっても深い専門性も経験もなければ「自主性がなく、とくに前職で成果も出してこなかったのだろうな」と感じます。それだけでNGになることがほとんどです。

では、その「他社で通用する」をどう見分けるか。それは仕事のライフサイクルというフレームワークを使えば判断できます(次回以降の連載で書いていきます)。さらなる詳細は『転職の思考法』の中で紹介しています。

「目の前のことを愚直に頑張れ」は明らかな嘘

かつて日本は「石の上にも三年」を前提にして、とにかく目の前のことを頑張れ、という風潮がありました。あるいは現代でも、成功者の一部の人間は同様のことを言います。

しかし「目の前のことをひたすら頑張れ」説は、データで見ると明らかに「嘘」です。なぜなら、そもそも業界の生産性には20倍近い差が存在していて、個人の「頑張り」で逆転することはほぼ不可能だからです。

そもそも1頑張っても1しか得られない業界と、1頑張れば20得られる業界が存在しているわけです。20代でも年収2000万円もらえる外資系の投資銀行がある一方で、30代で年収200万円の人がいるのはわかりやすい例でしょう。問題は頑張っているかどうかではありません。「適切なポジションをとること」のほうがはるかに重要なのです。

才能は不平等ですが、ポジショニングは平等です。人生100年時代だからこそ、「どの立地を選ぶのか」「なんの会社を選ぶのか」はきわめて重要な要素になっています。しかし、転職サイトや転職エージェントは、そんなことは絶対に教えてくれません。多くの人は転職を考えると、情報を集めようとします。しかし、本当に必要なのはその「情報」を判断するための「思考法」なのではないでしょうか。