苦節10年、王子製紙が進める<br />中国・南通工場の先行き不透明中国では製紙各社の設備投資が過熱し、“紙余り”状態が続いている(写真と本文は関係ありません)
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 王子製紙の長年の経営課題だった中国・江蘇省にある南通工場がようやく本格的に動き始めた。

 東京ドーム44個分の広大な敷地で、年産40万トンからスタートし、2013年には能力を倍増、将来的には120万トン体制にする計画。主に企業の広告宣伝に使う高級印刷情報用紙を生産する。投資総額は約2000億ドル。同社の命運を担う巨大プロジェクトだ。

 計画が持ち上がったのは03年。国内需要の頭打ちから海外進出を迫られていた王子は、他社に先駆け単独で中国に工場を建設し、翌年にも稼働を始める予定だった。

 ところが政府の方針変更により建設許可が下りなかったことから、歯車が狂い始める。数年間の模索が続いた後、07年に南通市から10%の出資を受け入れることで再スタートを切るも、09年、リーマンショックの到来で、同社は計画をいったん凍結。赤字の解消後、ようやく建設を再開した。

 同社の有利子負債は、自己資本の2倍弱に当たる約8000億円。度重なる計画の遅延と財務状況の悪化で、投資家から批判を受けることもしばしばだった。そのたびに歴代トップは「南通工場の勝算はある。計画は必ず遂行する」とかたくなな姿勢を崩さなかった。

 王子の根拠は二つ。中国の高い経済成長により紙市場は爆発的に伸びるとみていること、そして13年から他社に先駆けパルプ生産を始めることだ。

 王子は原料の木材チップからパルプを作り、原紙生産・加工といった一貫生産がコストや品質面で差別化につながると主張。さらに、余ったパルプを外販することでいっそう収益にプラスに働くという。

 確かに、パルプ生産には大規模な設備と高い操業技術が必要で、中国において他社はほとんど手がけていない。

 しかし、計画が遅れている間に取り巻く状況はいささか変化した。

 中国では製紙各社の設備投資が過熱し、南通工場の周りだけでも複数の巨大工場がある。すでに供給が需要を上回る状態で、中国メーカーは低価格を武器に日本への輸出を拡大しているほどだ。