人気ブロガー・ちきりんさんの今回の対談相手は、フラッシュメモリ開発、次世代メモリの研究で世界をリードする竹内健・中央大学教授です。竹内氏が1月に著わした『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎新書)を読んで大感動のちきりんさん。今回は、ちきりんさんからの熱烈要望で特別対談が実現しました。
東芝、スタンフォード大ビジネススクール、そして大学の研究室へと、常に活躍の場を変えながらも最先端フラッシュメモリの研究・開発に携わってきた竹内教授。日本の半導体メーカーの現状を、ホンネで話していただきました(構成:本丸 諒)。
フラッシュメモリの神様が、人生を変えた
竹内 対談って、実は初めてなんです。私は正真正銘、コテコテのエンジニアですから、講演や学会で一方的に話すことはありますけど。
中央大学理工学部 電気電子情報通信工学科 教授。1967年東京都生まれ。93年、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻修士課程修了。工学博士。同年、(株)東芝に入社し、フラッシュメモリの開発に携わる。2003年、スタンフォード大学ビジネススクール経営学修士課程修了(MBA)。帰国後は東芝フラッシュメモリ事業の製品開発のプロジェクトマネジメントや企業間交渉、マーケティングに従事。2007年、東芝を退社し、東京大学大学院工学系研究科准教授を経て、2012年4月からは中央大学理工学部教授。フラッシュメモリ、次世代メモリの研究・開発で世界的に知られる。著書に『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎新書)がある。
ちきりん 先生の書かかれた『世界で勝負する仕事術』(幻冬舎)を拝読させて頂き、ぜひお会いしたいと思いました。私のことは今回の本の紹介で、初めて知っていただいたんですよね?
竹内 いえ、知ってましたよ。ちきりんさんがブログで、「ソニーのテレビ事業部に配属された新入のエンジニアはとてもかわいそうだ、卒業時は日本で最も優秀なエンジニアだったはずなのに、8年間も赤字部門で働かされていたなんて」と書かれているのを見て、私も以前は東芝のエンジニアでしたからズシンと心に響きましたよ。そのあと、「技術も知らない奴が、なにを言ってる!」みたいな反論がだいぶあったみたいですが、ちきりんさんの意見のほうがよっぽど的を射ていると思いました。
ちきりん 先生にそう言っていただけると、心強いです。ソニーに限りませんが、理工系の一流大学院で学び、一流メーカーに入社した優秀な若者が、8年後の33歳まで「たった1円の利益も稼いだ経験がない」って、明らかになにかがおかしいと思ったんです。
赤字でもそれなりの給料をもらっているわけですけど、それって全部、他部門の人たちが稼いできたお金ですよね。あるいは、過去のテレビ事業部の人たちの遺産だったり、もしかしたら銀行からの借入金を回しているだけかもしれません。8年間もそんな状態では、それが当たり前になってしまいます。
彼らがかわいそうだと思うのは、20代、30代をそんな負け戦の続くところで過ごしてきた人が、40代になった時、世界をリードする商品を開発できるエンジニアになれるのか、ということです。そんなところに閉じ込めていたら、有望な若手の可能性を毀損してしまう。
竹内 その通りです。