リーマンショックなど多くのファンドが損失を拡大するような状況でも、常に圧倒的な利益を獲得してきた現役ヘッジファンドマネジャーの塚口直史氏による連載。話題の新刊『一流の投資家は「世界史」で儲ける』の内容を中心に投資家にとって有益な情報だけをお伝えしていく。

なぜ、投資家が「世界史の教養」を身につけるべきなのか?

なぜ、投資家が世界史の教養を身につけるべきなのか?

 私の仕事は、資産の運用です。グローバル・アセット・アロケーターという世界分散投資分野のファンドマネージャーとして20年以上運用業務に携わっています。

 「明日どうなるか分からない」という金融商品の不確実性からくる不利益をなるべく減らそうと、リターン獲得とリスクヘッジの観点から日々運用を行っています。

 そんな中、私は長年の運用経験を通してある実感を持つようになりました。それは、資産運用において実際に役に立つ知識や経験とは、現在の市場情報の分析よりも、もっと広がりのある世界史の知識の「蓄積」と「援用」だということです。

 多くのファンドマネージャーを見つつ、自分もその一人として活動してきた中で、「世界史観」がなければ、運用で長期にわたってパフォーマンスを上げることは不可能だと考えるようになりました。

 本連載では、連載第1回第2回のように、私の新著『一流の投資家は「世界史」で儲ける』の内容を中心に「歴史」という切り口から、これからの世界がどうなっていくのかなどについて説明をしたいと思います。

 世の中には、お金の歴史について解説した書籍はたくさんあります。しかし、それらの本を読むことで得られるのは、世界史の知識の「蓄積」まででしょう。

 もちろん、お金の歴史を知ることは投資をするうえで非常に大切なことです。しかし、本連載ではそこに留まらず、読者の皆さんが投資をする際に役立つ実践的な知識やノウハウ、すなわち「援用」の部分まで解説したいと思います。

 これは現役のファンドマネージャーとして日々投資を行っている私だからこそお伝えできることだと思います。

 少し具体的な話もしてみましょう。

 世界が激変する中で現在問題視されつつあるのが、年金基金をはじめとする機関投資家の資産運用の手法です。

 国民が運用機関に預けている資産の多くが「静的アセットアロケーション」という運用手法により運営されていることが時代遅れであるとして問題となりつつあります。

 これは、ポートフォリオに組み込んでいる資産の比率を常に維持していく手法で、たとえば、株式は4割、債券は6割といった形をどんなときでも変更しないスタイルのことです。

 市況が下がれば下がるほど、それまでに取り決めていた資産比率を維持するために「ナンピン買い(下落に買い向かう行為)」をしなければならず、総合ポートフォリオのリスクが発散していく危険性があります。

 実際に、リーマンショックが起こったときには、多くの年金基金の運用資産がこの手法によって傷口を広げ、大きく棄損していきました。一方で、欧米ではこの10年間、リーマンショックの反省から大きく揺れ動く時代にあった運用手法を構築し始めています。

 それが、「動的アセットアロケーション」です。

 これは、時流に合わせてポートフォリオの組みかえを果敢に行う手法です。この難点は、どのようにポートフォリオを組みかえるかというメンテナンスの難易度が急激に上がることです。

 そして私は、このメンテナンスに欠かせないのが、本書のカギとなる世界史観だと考えています。

 世界史観とは歴史をより広く、そしてより深く学ぶことで物事の因果関係のパターンを習得し、物事の本質に迫ることです。

 Aという出来事が起きると次にBという出来事が起きやすいという、過去の事例の知識をできるだけ多く持ち、それに基づいた投資シナリオを人より早くポートフォリオに組み入れていけば良いのです。

 これを繰り返すことで気がつけば、「動的アセットアロケーション」を自然と行えるようになり、時流に合った投資シナリオが分散された最良のポートフォリオを手に入れることができているはずです。

 本連載では、様々な時代の出来事を紹介しつつ、現在の混沌とする金融市場で、どのように「想定外」を排除しながら資産運用を行うのか、すなわち、世界史の知識をどのように資産運用に「援用」できるのかを中心に解説していきたいと思います。